髄膜腫


髄膜腫は原発性脳腫瘍(がんの転移でない脳腫瘍)のうち最も頻度の高いものです。ゆっくり大きくなるので無症状であることも多く、脳ドック検査などで偶然発見される脳腫瘍の半数が髄膜腫であるといわれています。
髄膜腫は、そのほとんどが良性(WHO分類のGrade1に相当)です。しかし、一部に細胞分裂が速いやや悪性のものが存在しますので、注意が必要です。
腫瘍は硬膜に付着しながら放射状に成長し、発生母地となるくも膜細胞があれば頭蓋内のどこからでも発生しますが、前頭部の円蓋部に発生することが最も多いです。(図1 円蓋部髄膜腫)。円蓋部髄膜腫は無症候であることが多いですが、てんかん発作や麻痺などを起こすこともあります。
傍矢状洞髄膜腫(図2)は矢状静脈洞の周囲にある皮質静脈の還流を障害させて、周囲の脳に浮腫(むくみ)がおよび、てんかん発作や麻痺などを引き起こす率が高くなります。

円蓋部髄膜腫 傍矢状洞髄膜腫
図1 円蓋部髄膜腫 図2 傍矢状洞髄膜腫

いずれにせよ神経膠腫(グリオーマ)などと異なり、脳実質外から発生する良性腫瘍で、発育もゆっくりであることが多いため、特段に大きい腫瘍でないかぎり発見してすぐ手術が必要となることは稀です。MRIなどの画像検査で半年から1年間、腫瘍の成長速度などを十分観察し、明らかな増大が認められる場合や臨床症状を来す場合にのみ、リスクなどを考慮しながら手術を検討するのが一般的です。

当科の治療方針

当科の髄膜腫の治療方針は、1)画像上脳浮腫が広範囲に及んでいる、ないしは頭痛、制御困難なてんかん発作などの臨床症状がある場合は手術を、2)それ以外はトラピジル内服で腫瘍の成長を抑えながら、定期的にMRIで経過観察を行うこととしています。トラピジルは、元来、動脈硬化の進行を抑えるために開発されたお薬ですが、髄膜腫が大きくなるために必要な成長因子の働きをブロックする作用があることが研究によって判っています1)。髄膜腫は、見つかったときよりも大きくならなければ、日常生活に何ら支障を来さないことがほとんどですので、当科では、手術をなるべく回避し、まずはトラピジル内服などで腫瘍の成長を抑えることを試みます。

1)手術をする場合

抗てんかん薬の内服だけでは容易に抑えられないてんかん発作(手足や全身の痙攣など)や、麻痺などの神経脱落症状がある場合は、開頭・腫瘍摘出術を考慮します。摘出の容易さを左右する要因としては、腫瘍の部位や大きさ、硬さ、栄養血管の豊富さなどがあげられます。腫瘍が大きくて硬い場合は、周囲の脳や神経、血管と癒着していることが多いため、腫瘍をはがす際に、それらが傷つく危険が高くなります。
手術は一般的に、腫瘍を全部取りきることを目指します。全摘出できなかった場合には、原則としてトラピジル内服で残った腫瘍の経過を観察しますが、すぐに大きくなってくることが予想される場合には、ガンマナイフなどの定位放射線治療を行うことがあります。定位放射線治療は治療選択肢の一つとして重要ですが、髄膜腫に一般的に行う治療ではありません。放射線照射により、腫瘍周囲の脳や神経、血管を傷害したり、髄膜腫自体が悪性化したりすることがあるからです。その適応については、摘出した髄膜腫の病理所見や、残った腫瘍の部位・増大速度などをよく考慮したうえで判断する必要があります。

2)経過観察を行う場合

脳ドッグなどで偶然見つかった場合で、特段の症状がなく、脳浮腫も著明でない場合は、すぐに手術はせず、3ヶ月後にもう一度MRI検査を行い、腫瘍が増大するか否かをチェックします。また、必要ならば、血液検査やPET検査、胸腹部のCT検査などを追加し、見つかった腫瘍ががんの転移のような悪性腫瘍でないことを確かめます。髄膜腫の可能性が高い場合は、トラピジル内服を開始します。3ヶ月後のMRIで腫瘍が大きくなっていないようなら、さらにその半年後にMRI検査を行い、それでも大きさに変化がなければ、もう半年後にMRI検査を行います。こうした一連の画像検査でも腫瘍の大きさに変化がない場合は、それ以後、年に1回の頻度でMRI検査を行って、経過を観察していくことにしています。トラピジル内服などについて、詳しくは外来にてお尋ねください。

参考文献

  1. Todo T, Adams EF, Fahlbusch R: Inhibitory effect of trapidil on human meningioma cell proliferation via interruption of autocrine growth stimulation. J Neurosurg 78:463-469, 1993

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