1. HOME
  2. 脳腫瘍について
  3. 神経膠腫(グリオーマ)

神経膠腫(グリオーマ)

脳腫瘍は、最新の病理学的分類によると100種類以上あります2)。脳腫瘍は大きく良性と悪性に分けられ、そのいずれであるかによって治療戦略が変わってきます。

良性脳腫瘍の場合は、手術の果たす役割が大きく、完全に摘出できれば完治が期待できます。一方、悪性脳腫瘍の場合は手術だけではなく、放射線治療と化学療法も重要です。

脳と脊髄には神経細胞と神経線維以外に、それらを支持する神経膠細胞があり、この神経膠細胞から発生する腫瘍を総称して神経膠腫(グリオーマ )といいます。

神経膠腫には星細胞腫、乏突起神経膠腫、上衣腫などの種類があり脳から発生する腫瘍のおよそ25%を占めていて、臨床的にはすべて悪性脳腫瘍に分類されます。腫瘍細胞が脳に染み込むように広がり(浸潤性発育)、手術で取り切れないことが多いからです。さらに病理診断上は悪性度に応じてグレードが4つにわかれていています。グレード1(毛様細胞性星細胞腫)やグレード2(星細胞腫や乏突起神経膠腫など)に比べて、グレード3(退形成星細胞腫や退形成乏突起神経膠腫など)やグレード4(膠芽腫)は悪性度が高く、グレード3とグレード4のものを悪性神経膠腫と総称します。とくに悪性神経膠腫は通常画像で見える範囲よりはるかに広い範囲に早期から腫瘍細胞が進展しています。

したがって、手術で完全に取り除いたように見えても周囲の脳組織内に残った腫瘍細胞が時間の経過とともに増えて再発してきます。手術後の再発を予防あるいは遅らせる目的で放射線治療と化学療法を行います。神経膠腫と診断されて最初に行う手術・放射線治療・化学療法を初期治療と言います。

標準治療」とされる初期治療は、麻痺や言語障害などの後遺症状を出さない範囲でできるたけ多くの腫瘍を手術で摘出し、手術の直後から(創が治り次第)、放射線治療と化学療法を同時に行います。放射線治療は一般的に、腫瘍とその周囲の脳を少し含む範囲に、一日2Gyを30回、総線量60Gyの放射線を照射します。当科では、総線量80Gyを選択することもできます(高総線量分割照射)。標準とされる化学療法は、テモダール(一般名:テモゾロミド)です1)。初期治療のあとは、テモダールをきちんと28日周期で継続するような綿密な維持療法を行うことが重要です。さらに2, 3ヶ月おきにMRIを行うなど、再発の有無を注意深く観察していかなければなりません。

一方、残っていた腫瘍が大きくなってきたり、摘出したあと再発してきたりして進行する悪性神経膠腫に対する治療には、まだ確立された標準治療がありません。再発や進行の状況に応じて選択できる治療が限られてきます。再手術や広範囲定位放射線治療(ガンマナイフなど)が可能であれば、まずそれらが検討されます。また化学療法の薬剤選択については、1) アバスチン療法を併用する方法、2) テモダールを継続する方法、3)テモダールにインターフェロンβを追加する方法、4)ニムスチン(商品名:ニドラン)などテモダール以外の他の化学療法に変更する方法、などがあります。

当科ではこれらの選択肢に加え、可能であれば、ウイルス療法の治験への参加を検討します。

病理診断に基づく神経膠腫(グリオーマ)の分類

病理診断に基づく神経膠腫(グリオーマ)の分類

星細胞腫  Diffuse astrocytoma2)

星細胞腫は悪性度グレード2の神経膠腫で、グレード2の乏突起神経腫とともにローグレードグリオーマ(low grade glioma)などと呼ばれることもあります。原発性脳腫瘍のおよそ8%、全グリオーマの約30%を占め2)、成人男性の大脳半球(前頭葉>側頭葉>頭頂葉)に多く発生しますが、小児の脳幹などにも発生することがあります。症状は、痙攣(約30%)、頭痛(30%)などで、進行すると片麻痺などの局所症状が出現してきます。発症からの経過は長く、数年以上という症例もあります(生存期間中央値7-8年。5年生存率50-70%3)。主な治療法は手術であり、腫瘍をできるだけ安全に摘出します。最近は術後の神経症状の悪化を防ぐため、術中ナビゲーションシステム(カーナビのようなもの)や電気生理学的モニタリングをして神経の機能を温存しながら摘出するよう努めています。手術後に腫瘍が残った場合、放射線治療を行うと星細胞腫は縮小します。しかし、それが最終的に生存期間を延長するか否かについてはまだ結論が出ていません。また化学療法併用療法に関する治療成績の報告は少なく、その有効性には疑問が残ります。いずれにせよ星細胞腫は再発してきます。再発する時は、しばしば悪性度の高い神経膠腫に変わります(悪性転化)。手術でいわゆる全摘をしたとされる場合でも、少なくとも半年に一度はMRIを行い、ずっと継続して再発を警戒しなければなりません。

乏突起神経膠腫  Oligodendroglioma2)

乏突起神経膠腫は、悪性度グレード2の神経膠腫です。痙攣で発症することが多く、大脳半球の前頭葉に発生します。原発性脳腫瘍の2.5%を占めます。脳表の近くに発生し、CTでは石灰化を伴うなどの特徴がありますが、診断を確定するには手術で摘出した腫瘍の病理診断が必要です。20〜30年かけてゆっくり大きくなるものもあります(生存期間中央値11.6年。5年生存率約70%)。なお、1pと19qのLOHがある場合は、グレード2でも積極的に化学療法を行う傾向にあります(1p/19q LOHについては退形成乏突起神経膠腫の項を参照)。化学療法は、以前はプロカルバジン(商品名:塩酸プロカルバジン)、ACNU(商品名:ニドラン)、ビンクリスチン(商品名:オンコビン)の3剤併用が標準とされていましたが、最近はテモゾロミドを第一選択にするのが一般的です7)

退形成星細胞腫  Anaplastic astrocytoma2)

退形成星細胞腫は、星細胞腫より悪性度が高くグレード3に属します。成人大脳半球に発生し、その頻度は原発性脳腫瘍のおよそ5%、全神経膠腫の約15%を占めます3)。発症からの生存期間中央値は2.5年で、5年生存率も20%程度です3)。治療は手術で出来るだけ摘出して、術後に放射線治療(一般的に総線量60Gy)と主にテモダールを用いた化学療法を行います(悪性神経膠腫の標準治療参照)。

退形成乏突起神経膠腫 Anaplastic oligodendroglioma2)

退形成乏突起神経膠腫もグレード3の腫瘍です。かつては顕微鏡で病理組織を観察するだけで診断していたため、原発性脳腫瘍の0.2%を占めるに過ぎませんでしたが、近年LOH(ヘテロ接合性の消失、Loss of heterozygosity;対になっている染色体やその一部の片方が欠失していること)解析という染色体の検索法が加わったことで、その診断率が増加しています。典型的な退形成乏突起神経膠腫では、LOH解析をすると、 1番染色体短腕(1p)と19番染色体長腕(19q)が欠失しています4)。退形成乏突起神経膠腫の2年生存率は57%、5年生存率も33%ですが3)、1pと19qの欠失がある症例では予後が比較的良好(生存期間中央値7年)です。そのため現在では1pと19qのLOHがあること自体が予後良好因子として認識され、LOH解析を考慮して病理診断をする施設が増えてきています5)。治療は退形成星細胞腫や膠芽腫に準じますが、1pと19qのLOHがある場合は、手術で腫瘍が取りきれなくても、放射線治療や化学療法で残った腫瘍が一旦消失したり縮小したりすることが少なくありません(悪性神経膠腫の標準治療参照)。また、再発した腫瘍に対しても、化学療法の再開がしばしば有効です。

膠芽腫 Glioblastoma2)

膠芽腫は原発性脳腫瘍の9%、全神経膠腫の36%を占め、グレード4であり最も悪性度が高い腫瘍です3)

膠芽腫には、初発時から膠芽腫の所見を呈するもの(一次性膠芽腫)と、星細胞腫などから悪性転化して生じたもの(二次性膠芽腫)の2種類があります。45-65歳の男性の大脳半球(前頭葉>側頭葉)に多く、浸潤性が強い腫瘍で脳の神経線維の走行に沿って進展していきます。また、脳脊髄液に腫瘍細胞がこぼれて脳脊髄液の流れに乗って全脊髄に播種することもあります。

症状は頭痛のほか、痙攣や性格変化、認知症、運動麻痺などが生じ、早いものは週単位で症状がどんどん悪化していきます。

治療は、手術・放射線・テモダールを用いた化学療法を行います。テモダールは、ニドラン(ACNU)などの注射薬と比較して、白血球減少などの骨髄抑制が軽いとされていますが、その一方で通常はあまりみないニューモシスチス肺炎という真菌の一種による肺炎が起こることがあり注意が必要です1)。(悪性神経膠腫の標準治療参照)

膠芽腫の発症からの生存期間中央値は約1年程度であり、2年生存率30%以下、5年生存率8%以下とされます3)

近年、星細胞腫や二次性膠芽腫の約70%にIDH (isocitrate dehydrogenase)という酵素をコードしている遺伝子,IDH1 (amino acid 132) およびIDH2 (aminoacid R172) に変異が認められ、この変異が予後良好因子である可能性が示唆されています。詳しい機序は不明ですが、IDH1またはIDH2の変異がグルタミンや脂肪酸、クエン酸生成に関与する酵素に影響する可能性が指摘されています。グルタミン酸の脱アミノで作られるα-ケトグルタラート(α-ketoglutarate;α-KG)は、特にクエン酸回路の中間体として重要なのですが、IDH1またはIDH2に変異をきたした細胞内では、新たにD-2-ヒドロキシグルタル酸が作られ、これがα-KG依存性の酵素(histone demethylases, DNA hydroxylasesなど)の代謝を競合的に阻害して腫瘍化にも関与しているというのです。これらの変異の有無が臨床的にどれほどの差を生じてくるのかを確かめるには、もうしばらく時間がかかりそうですが、MRI(正確には磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS))などでD-2-ヒドロキシグルタル酸を検出できれば予後の判断に役立つようになるかもしれません。

膠芽腫の症例

膠芽腫の症例

参考文献

  1. Stupp R, Mason WP, van den Bent MJ et al: Radiotherapy plus concomitant and adjuvant temozolomide for glioblastoma. N Eng J Med 352:987, 2005
  2. Louis DN, Ohgaki H, Wiestler OD, et al: The 2007 WHO Classification of Tumours the Central Nervous System. Acta Neuropathol (Berl) 114: 97, 2007
  3. Report of brain tumor registry of Japan (1969-1996) 11th Edition. Neurol Med Chir (Tokyo) 43 Suppl, 2003
  4. Ino Y, Betensky RA, Zlatescu MC, et al: Molecular subtypes of anaplastic oligodendroglioma: implications for patient management at diagnosis. Clin Cancer Res 7:839, 2001
  5. van den Bent MJ, Carpentier AF, Brandes AA, et al: Adjuvant procarbazine, lomustine, and vincristine improves progress-free survival but not overall survival in newly diagnosed anaplastic oligodendroglioma and anaplastic oligoastrocytomas: a randomized European Organisation for Research and Treatment of Cancer phase III trial. J Clin Oncol 24:2715, 2006
  6. Borodovsky A, Seltzer MJ, Riggins GJ: Altered cancer cell metabolism in gliomas with mutant IDH1 or IDH2. Curr Opin Oncol 24:83-9, 2012
  7. Jaeckle KA, Ballman KV, Rao RD, Jenkins RB, Buckner JC: Current strategies in treatment of oligodendroglioma: evolution of molecular signatures of response. J Clin Oncol, 24: 1246-52, 2006

Page Top