近年の医学研究・医療では、疾患の早期発見と予防的介入が重視されている。例えば、遺伝性腫瘍の場合、遺伝学的リスクを知ることは患者本人の治療選択に加え、未発症の血縁者へのサーベイランスによる早期発見や予防的切除の選択などの健康管理に繋がる。こうした医学の潮流は、進行抑制や発症予防の観点から、遺伝性の神経難病や様々な多因子疾患にも拡大しつつある。
しかし、遺伝性の神経難病や多因子疾患の遺伝学的リスクを早期に知ることに関する当事者の認識、日常生活、家族関係等に与える影響については十分に検討されていない。医学的な観点から示される遺伝学的リスクと、個人の生活の文脈で理解される遺伝学的リスクの意味との間にはズレがある可能性があり、医学的な観点からでは捉えきれない側面がある。遺伝学的リスクの意味づけを踏まえた早期把握の理由を理解するためには当事者である患者や家族、そしてリスク予測の対象となる一般市民の視点から検討する必要がある。また、遺伝学的リスクの意味づけは個人を取り巻く環境、家族関係、コミュニティ、社会制度等に影響を受ける。加えて、他者からは表面的には非合理な意思決定をしているように見えても当事者にとっては合理的な選択である場合もある。そのため、的確に個人の遺伝学的リスクの意味づけを探索するための手法として、国内外では質的調査という研究手法が確立されてきた。
本セミナーでは、遺伝学的リスクを早期に知ることの意義と課題について、単一遺伝子疾患である球脊髄性筋萎縮症(SBMA、下位運動ニューロン疾患)患者・非発症保因者へのインタビュー調査、および多因子疾患である認知症の早期予測・予防に関する市民対象のフォーカスグループインタビューから示す。調査結果を既存の研究と比較分析するとともに、本研究の可能性と限界について論じたい。
自己および家族の遺伝学的リスクを早期に知ることに関する医療社会学―球脊髄性筋萎縮症(SBMA)と認知症を事例に
学友会セミナー
開催情報
開催日時 | 2024年11月11日(月)15:00~16:00 |
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開催場所 | zoomによる開催 ミーティング ID: 885 9639 2204 パスコード: 171113 |
講師 | 木矢 幸孝 |
所属・職名 | 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 公共政策研究分野 特任研究員 |
演題 | 自己および家族の遺伝学的リスクを早期に知ることに関する医療社会学―球脊髄性筋萎縮症(SBMA)と認知症を事例に |
世話人 | 主たる世話人:
柴田 龍弘(ゲノム医科学分野)
武藤 香織(公共政策研究分野)
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