「遺伝情報を正確に子孫に伝達する」ことは、種を維持するために必須の資質である。APOBEC3(A3)ファミリータンパク質は、ゲノムを不可逆的に編集する強力な抗ウイルス因子として知られている。レンチウイルスを用いた長年の研究により、A3からの回避は、感染性ウイルスを産生するために極めて重要であると考えられている。A3はヒトにおいて7つの遺伝子として存在し、それぞれがコードするA3ファミリータンパク質は、細胞内局在、基質特異性、発現パターンに違いがある。すなわち、ヒトはA3の多様性を増やすことで、様々な病原体に対抗してきたと想像される。一方で、普遍的に存在するDNAウイルスとA3との攻防の全容は、実際にはほとんど明らかになっていない。
Human herpesvirus 6B (HHV-6B)は、乳幼児期にほぼ全てのヒトが感染する普遍的な病原体であり、突発性発疹や脳炎の原因として知られている。HHV-6Bは、T細胞のみで増殖するという特徴的な性状を持ち、場合によっては持続的に体内から検出される。また、造血幹細胞移植やCAR-T療法に伴ってHHV-6Bの再活性化と病態発現が高頻度で発生することが近年知られている。T細胞をはじめとした血球細胞は、生体内でもA3の発現が高く、ウイルスに対する抵抗性が強いと考えられている。このため、HHV-6Bが生体で維持されるためには、A3ファミリータンパク質を広く、かつ強力に阻害することが必要不可欠であると考えられる。最近我々は、HHV-6Bが、A3から回避するメカニズムを明らかにした。興味深いことに、HHV-6BによるA3阻害の指向性および方法は、これまで知られてきたものとは異なるユニークなものであった。また、A3に対する抵抗性は、ヘルペスウイルス種ごとに著しく異なっており、その指向性や病態に大きな影響を与えている可能性が示唆された。本日はこれらの研究成果について紹介したい。
抗ウイルス因子APOBEC3とヘルペスウイルスとの攻防
学友会セミナー
開催情報
開催日時 | 2023年12月1日(金)16:00~17:00 |
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開催場所 | 2号館大講義室 |
講師 | 有井 潤 |
所属・職名 | 神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター・特命准教授 |
演題 | 抗ウイルス因子APOBEC3とヘルペスウイルスとの攻防 |
世話人 | 主たる世話人:川口 寧(ウイルス病態制御分野)
河岡 義裕(ウイルス感染部門) |