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RNAウイルスの複製を抑制する宿主因子とその仕組みを模倣した創薬の試み

学友会セミナー

開催情報

開催日時 2023年1月30日(月)16:00~17:00
開催場所 1号館講堂
講師 山根 大典
所属・職名 東京都医学総合研究所 疾患制御研究分野・主席研究員
国名 JAPAN
演題 RNAウイルスの複製を抑制する宿主因子とその仕組みを模倣した創薬の試み
世話人 主たる世話人:川口 寧(ウイルス病態制御分野)
世話人:   河岡 義裕(ウイルス感染部門)   
 

概要

肝炎ウイルスは肝細胞に感染し増殖することで急性・慢性肝炎を引き起こし、肝機能障害や肝癌の原因となる。肝炎ウイルスの多くはヒトの受容体を利用することから、ヒト肝癌由来細胞株やヒト肝細胞キメラマウスを用いた研究が主に行われている。しかしながら、臨床分離株の株化細胞に対する感染効率が比較的乏しいことから、ウイルス複製の仕組みについて未解明な点が多く残されている。
我々は細胞培養が困難な肝臓指向性ウイルスの感染感受性を制限する宿主因子の解明を目指し、脂質代謝や自然免疫に焦点を当てた研究を展開している。その中で脂質過酸化を介したウイルス複製制御の仕組みのほか、基底レベルで働く新たな抗ウイルス防御層の存在を明らかにしてきており、それらの作用機序を模倣する化合物の探索を起点とした創薬を目指した研究を進めている。
従来の自然免疫シグナル研究においては、ウイルス感染に応答して「活性化」する経路が機能的に最も重要であると考えられていたが、我々は感染応答性のシグナルとは独立して機能する「恒常的」な抗ウイルスシグナルがウイルス複製を制御することを新たに見出した。この基底レベルで働く防御層はインターフェロン制御因子1(IRF1)の支配下にあり、抗ウイルス因子群の発現を恒常的に維持することでウイルス複製を強力に抑制していることを明らかにした。我々はIRF1が転写誘導する抗ウイルスエフェクタ―を多数同定し、さらに様々なウイルスに対して特異的なエフェクタ―分子が抑制機能を担うことをつきとめた。
我々は、これまでほとんど注目されてこなかった基底レベルの抗ウイルス防御層の制御機構について研究を進めており、IRF1に直接結合し転写活性を増強する宿主因子の他、IRF1と協調して機能する新たな転写因子についても既に見出している。我々がこれまでに行ってきた、抗ウイルスエフェクタ―分子がウイルス複製を抑制する仕組みから着想を得た創薬の試みについても紹介したい。