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細胞膜損傷は細胞老化を誘導する

学友会セミナー

開催情報

開催日時 2022年10月21日(金)14:00~16:00
開催場所 1号館講堂
講師 河野 恵子
所属・職名 沖縄科学技術大学院大学 膜生物学ユニット 准教授
国名 Japan
演題 細胞膜損傷は細胞老化を誘導する
世話人 主たる世話人:中西 真 (癌防御シグナル分野)
世話人:     西村 栄美(老化再生生物学分野)
 

概要

細胞膜は物理的障害のみならず、筋肉の収縮など細胞の生理的活動によっても頻繁に傷つく。しかし細胞膜損傷を受けた細胞が長期的にどのような運命をたどるかについては、「生か死か」の二分法的理解にとどまっている。我々は、出芽酵母と正常ヒト線維芽細胞を用いて、細胞膜損傷が細胞老化を誘導することを見出した。出芽酵母を用いた遺伝学的スクリーニングの結果、細胞膜損傷応答と複製寿命の制御に必要な遺伝子に重複があることが見いだされ、細胞膜損傷応答と複製寿命の制御が遺伝学的に近い関係にあることが示唆された。実際、我々は出芽酵母において細胞膜損傷が複製寿命を短縮することを見いだした。正常ヒト線維芽細胞においては、細胞膜損傷はCa2+-p53軸を介して細胞老化を誘導すること、また最もよく知られた老化経路であるATM/ATR経路は必須ではないことが見いだされた。さらに、mRNA-seq とパスウェイ解析により、細胞膜損傷による老化細胞では、創傷治癒 SASP (Il-6, Mmp1, Mmp3) が発現上昇してGPVI コラーゲン経路を阻害し、その下流でさらに同じ創傷治癒 SASP が発現上昇するというフィードバックループが形成されていることが示唆された。以上より、細胞膜損傷は出芽酵母において複製寿命を短縮し、正常ヒト繊維芽細胞において細胞老化を誘導することが明らかになった。また、細胞膜損傷による老化細胞は生体内で組織の創傷治癒に寄与することが示唆された。