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プロリン異性化酵素によるがん細胞の増殖制御機構

学友会セミナー

開催情報

開催日時 2022年10月21日(金)14:00~16:00
開催場所 1号館講堂
講師 島田 緑
所属・職名 山口大学 共同獣医学部 獣医生化学分野 教授
国名 Japan
演題 プロリン異性化酵素によるがん細胞の増殖制御機構
世話人 主たる世話人:中西 真 (癌防御シグナル分野)
世話人:     西村 栄美(老化再生生物学分野)
 

概要

プロリンはシス-トランス変換(異性化)によりタンパク質の構造を大きく変化させる重要なアミノ酸である。ペプチジルプロリルイソメラーゼ(プロリン異性化酵素、PPIase)は、プロリンのシス-トランス異性化反応を触媒する酵素群で、3つのファミリーが存在する。その中で、免疫抑制剤として有名なFK506に結合するFKBPファミリーはヒトでは16種類存在する。我々は、医療ビッグデータから再発性乳がんの予後不良因子として、プロリン異性化酵素FKBP52を同定した。詳細な解析の結果、FKBP52はエストロゲン受容体α(ERα)とBRCA1の結合を促進させ、ERαを安定化させることが分かった。FKBP52と相同性が高いFKBP51は、FKBP52の機能とは逆にERαの分解を促進することが判明した。重要なことに、内分泌治療抵抗性となった乳がん細胞株に対しても、FKBP52を阻害することで、ERαの発現量およびがん細胞の増殖を抑制できる結果が得られた。以上の研究成果は、ERα陽性乳がんの患者さんに対して問題となるERαの活性化による乳がんの再発に対して理解を深めることとなり、新たなバイオマーカーの発見、効果的な治療法開発へと展開することが期待できる。
FKBP52は、乳がんだけでなくほぼ全ての種類のがん組織で発現が亢進して おり、ERαの発現調節以外にも、がんの悪性化に寄与する機能を持つことが示唆される。FKBP52と結合する因子を探索したところ、FKBP52はヒストンと結合することが分かった。ヒストンの化学修飾(ヒストンコード)による遺伝子発現のエピジェネティック制御は、生命の様々な事象の根幹をなす機構である。私はFKBP52がヒストンのシス-トランスの異性化を行うこと、そして立体構造を変化させ、近傍のアセチル化を変化させていることを見出した。ヒストンのプロリンの異性化による新たな遺伝子発現制御についても議論したい。