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ゲノム編集治療のための多重ガイドRNA発現アデノベクターの開発と特許

学友会セミナー

学友会セミナー:2019年11月19日

開催日時: 2019年11月19日 17:00 ~ 18:00
開催場所: 2号館2階 小講義室
講師: 中西 友子
所属: 微生物化学研究所・博士研究員
演題: ゲノム編集治療のための多重ガイドRNA発現アデノベクターの開発と特許
概要:

CRISPR/Cas9をはじめとしたゲノム編集技術は、基礎研究分野に広く普及し、がんや遺伝病の治療に向けた臨床研究・試験が急速に進められている。また今年7月には、先天性黒内症に対してCRISPR/Cas9を利用した世界初のin vivo遺伝子治療の患者登録が始まった。しかし、ヒトゲノム上の標的以外に意図せぬ変異を導入してしまうオフターゲット作用、ゲノム編集効率、デリバリーなど、ゲノム編集の臨床応用には多くの問題が残されている。また、現在ゲノム編集治療で使われているAAVベクターはアデノウイルスベクターに比べて組み込めるサイズが小さく、オフターゲットの回避が難しい等の欠点がある。我々は、CRISPR/Cas9のガイドRNA 8個とCas9 nickaseを搭載した一体型多重ガイドRNA発現アデノベクターの開発に成功し、動物実験が可能な量まで欠失なく調製できることを見出した(日経産業新聞8月14日)。このベクターを使えば、2個のガイドRNAとCas9 nickaseによる安全なダブルニッキング切断(DN切断)により、理論上オフターゲットを生ずることなく標的を確実にノックアウト可能である。また、複数のカスケードや多数のファミリー遺伝子を最多で8遺伝子まで同時にノックアウトできるため、機能遺伝子が不明な時にその候補遺伝子をすべてノックアウトして機能消失を確認してから絞り込むトップダウン戦略などへの応用も考えられる。現在は、遺伝性疾患であるフェニルケトン尿症に対する治療法開発や、ヒトパピローマウイルスによる子宮頸がんの悪性化予防法開発や、DN切断によるマウス肝臓腫瘍に対するin vivoゲノム編集治療モデルの開発に取り組んでいる。本セミナーでは、遺伝病とがんを標的としたゲノム編集治療および基礎研究への応用にむけたアデノベクターの開発について紹介するとともに、ゲノム編集治療における高額な特許状況とそれを回避するベクターについても言及する。さらに、医科学研究所における基礎・応用研究を支援する新たな改変ベクター作製の可能性ついても議論したい。

世話人: 〇古川 洋一 (臨床ゲノム腫瘍学分野)
 藤堂 具紀 (先端がん治療分野)