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TRIM5αによるHIV-1複製阻害

学友会セミナー

学友会セミナー:2008年07月16日

開催日時: 2008年07月16日 17:00 ~ 18:00
開催場所: 1号館2階会議室
講師: 佐久間 龍太 博士
所属: Department of Molecular Medicine, Mayo Clinic Rochester MN USA
演題: TRIM5αによるHIV-1複製阻害
概要:

近年、TRIM5α、APOBEC3G/Fを始めとするHIV-1の増殖を抑制する宿主細胞因子が発見され、その特異性、作用機序、更には遺伝子治療への応用を目した研究が進められている。アカゲザル(rhesus macaque)由来TRIM5α(TRIM5αrh)は、tripartite motif(TRIM)family proteinsの一員であるTRIM5タンパク質のアイソタイプで、HIV-1の感染を抑制する宿主細胞因子として発見された。TRIMタンパク質は共通して、RBCCドメイン(RING、B-Box、Coiled-coil)を持ち、TRIM5αは更にB30.2(PRYSPRY)ドメインを持つ。TRIM5αrhは、HIV-1の感染初期、宿主細胞内への侵入してきたHIV-1成熟コア構造をB30.2ドメインが認識し、不完全な脱殻を誘導することで、HIV-1の感染性cDNAの合成を阻害すると考えられている。
最近我々はTRIM5αrhがHIV-1の複製をも阻害することを報告した。複製阻害ではB30.2ドメインではなく、RBCCドメインが特異性、抑制活性を規定し、その標的はpr55Gagで、感染抑制とは異なる機序を持つことが示唆された。また、TRIM5αrhはpr55Gagによる粒子内に取り込まれることから、TRIM5αrhとpr55Gagの直接もしくは間接的な結合が示唆された。TRIM5αのキメラを用いた実験の結果、B-BoxとCoiled-Coilの前半領域が重要であることを発見し、更に複製阻害に必須なアミノ酸2点を同定した。これらアミノ酸を持つヒトTRIM5変異体は、しかし、Gagタンパク質に接近することができず、複製阻害活性を持たなかった。一方でキメラを用いた実験で同定されたB-BoxからCoiled-Coilの領域を導入されたヒトTRIM5α変異体は、HIV-1の増殖を抑制した。これらのことから、TRIM5αは先ずpr55Gagタンパク質に接近し、次にTRIM5αが直接、もしくは何らかの因子を誘導することでHIV-1の複製を阻害していると考えられる。HIV-1増殖抑制活性に関しては、発見されて間もないこともありさらなる研究、議論が必要ではあるが、TRIM5αの持つ二面的なHIV-1の増殖抑制に対する理解が深まることで、HIV-1増殖の感染と複製という両面で阻害可能な治療分子の設計に繋がると考えられる。

参考文献
Nature Medicine 2007 May;13(5):631-5.
Nature Medicine 2008 Mar;14(3):235-6; author reply 236-8.

世話人: ○俣野哲郎、川口寧