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脳MRIによる画像診断:形態の奥にあるものをみる

学友会セミナー

学友会セミナー:2016年12月09日

開催日時: 2016年12月09日 18:00 ~ 19:00
開催場所: 病院A棟8階 北(大)会議室
講師: 國松 聡
所属: 東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座・准教授
演題: 脳MRIによる画像診断:形態の奥にあるものをみる
概要:

現代の医療現場において、MRIは非侵襲的に診断を得るための有力なツールとして重要な位置を占めている。MRIにて取得される画像は形態情報を基本とするが、ほかにも様々な情報を内包している。本セミナーでは、そのような例として(1)拡散強調MRIならびに拡散テンソルMRI、および(2)医用画像のテクスチャ解析における我々の研究内容を紹介する。
 (1)生体内水分子の拡散能を反映する拡散強調MRIの臨床上の最大のインパクトは、急性期脳梗塞に対して非常に高い感度を有するというものである。一方で、中枢神経疾患のなかには画像上の形態や症状が脳梗塞ときわめて類似するにもかかわらず、虚血を本態とするものではないために根本的な治療法が異なるものが少なからず存在する。我々は、そのような疾患のうち神経ベーチェット病を対象として、拡散強調MRIを併用することで、脳梗塞との鑑別が可能であることを示している。また、拡散強調MRIの拡張である、拡散テンソルMRIを用いることで、脳の神経線維束の方向を推定し、モデル的に表示することができる。この手法は拡散テンソルトラクトグラフィーと呼ばれ、脳神経外科手術の術前マッピング手法として現在も活用されている。我々は、皮質脊髄路近傍に生じた脳梗塞症例に対して拡散テンソルトラクトグラフィーを応用し、機能予後の予測に役立つことを示している。
 (2)医用画像のテクスチャ解析は、近年の人工知能や自動化技術の発達に関連して、注目を浴びている。テクスチャ解析では、隣接画素間の相互関係により、画像の均一性や相関性、対照性などに関する定量値を得ることができ、人間の認知を補完することが期待されている。また、得られたテクスチャ指標は、特徴量として機械学習に使用することができる。我々は、造影MRIでの類似の画像所見を示すことのある2種類の脳腫瘍、膠芽腫および原発性脳悪性リンパ腫を対象とし、それぞれの典型画像から得られたテクスチャ指標を教師データとして機械学習を行ったのち、放射線科医が実際に診断に苦慮した非典型画像に対して得られた判別器による分類を行わせたところ、8割近い正答率を得ている。このように、機械学習や人工知能に関する技術は、画像診断の分野においても活躍が期待されているが、主流となりつつある深層学習には一般に数千件以上のデータが必要とされ、その場合に必然的に生じる画像の機種間差や施設間差をどう扱うかなど、まだまだ解決すべき課題がある。

世話人: ○小澤  敬也(病院長、遺伝子治療開発分野・教授)
 桐生  茂(放射線部/放射線科・准教授)