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膵島移植の技術開発と膵再生療法の臨床応用化

学友会セミナー

学友会セミナー:2008年03月10日

開催日時: 2008年03月10日 17:00~18:00
開催場所: 1号館2階会議室
講師: 野口 洋文 博士
所属: ベイラー研究所准教授、ベイラー大学客員准教授(米国テキサス州ダラス)
(Associate Investigator, Baylor Institute for Immunology Research, Baylor Research Institute, Adjunct Associate Professor. Institute of Biomedical Studies, Baylor University)
演題: 膵島移植の技術開発と膵再生療法の臨床応用化
概要:

野口先生は京都大学移植外科などでご活躍の後、現在米国ダラス、ベイラー研究所で膵島移植の臨床研究、基礎研究を行なっておられます。
要旨:膵島移植は1型糖尿病患者の新しい治療法として、全世界で大きな注目を集めている。2000年のアルバータ大学からのいわゆる「エドモントンプロトコール」の発表の後、欧米50以上の施設で600例以上の患者に膵島移植が臨床実施されている。しかしながら、20-40%という低い膵島移植率、複数回移植、長期インスリン離脱率の低さなど、膵島移植の改善すべき点も多く残されている。ベイラー研究所では膵島分離技術向上のため、1)保存液の膵管注入による膵保存、2)新規臓器保存液の開発、3)蛋白導入法を用いた抗アポトーシスペプチドによる膵保存、4)比重コントロールによる膵島純化、5)膵島の新規低温保存法などの開発を行っている。1)においてはすでに臨床応用化され、移植率100%(4回移植/4回膵島分離)と劇的な膵島移植率の向上を達成している。2)、4)においては現在FDAに新規膵島分離法として申請中であり、本年中に臨床応用化される予定である。5)においても近いうちにFDAに申請する予定である。3)については、現在JDRFIのサポートのもと、プレクリニカルスタディとしてリサーチグレードのヒト膵を用いての膵島分離を実施している。
ここ数年の膵島移植の成功は、臓器レベルではなく細胞レベルで膵島細胞を補充することにより血糖を正常化させうることを示している。このことにより、糖尿病患者の新たな治療法として膵島細胞再生療法の研究もこれまで以上に注目されるようになってきている。ベイラー研究所では、倫理的な問題の少ない体性幹細胞、特に膵幹・前駆細胞をターゲットとして、研究を行っている。現在、膵幹・前駆細胞は膵管もしくは膵管周囲に存在すると考えられており、アルバータ大学のヒト膵島移植の中期成績の報告では、膵管細胞の移植数が膵島移植の中期的な成績に大きく関わっていることが示されている。また、GLP-1アナログなどの膵再生因子を体内へ投与し、in vivoでの再生を促進させる試みも行われている。ベイラー研究所では、膵島移植時に膵管細胞を多く含むフラクションも同時に移植するよう試み、また、膵島移植後の患者にGLP-1アナログもしくはGLP-1分解酵素阻害薬の投与を行っており、すでに膵島移植の補助療法としての膵再生治療の臨床応用化を行っている。現在のところ、膵再生療法単独で1型糖尿病を治療することは難しいが、ベイラー研究所では蛋白導入法や新規ウイルスベクターを用いた遺伝子導入法などによる分化誘導法の開発といった基礎研究も精力的に行っている。膵再生療法が確立された医療になるにはいくつかのハードルを乗り越えなければならないが、研究者のさらなる努力により近い将来、糖尿病患者に対する新たな治療法のひとつになることは間違いない。

世話人: ○渡辺 すみ子、各務 秀明