English
Top

海産微細藻類に感染するウイルスたち

学友会セミナー

学友会セミナー:2016年02月03日

開催日時: 2016年02月03日 14:00~15:00
開催場所: 2号館 2階大講義室
講師: 長崎 慶三
所属: 水産総合研究センター センター長
演題: 海産微細藻類に感染するウイルスたち
概要:

海洋・湖沼等の天然水圏環境中にはおびただしい量のウイルス粒子が存在する.それらは個々に異なる生態学的機能を持ち,水圏生態系の維持・変動に関与していると考えられている.演者らは,微細藻類を中心とした微小プランクトンに感染するウイルスを対象とした研究に20年間に亘り携わってきた.水塊の色相の変化を伴う「赤潮」という巨視的な生物学的イベントは,プランクトンの大量増殖により引き起こされる.演者らは,現場調査および分子解析により,赤潮個体群の挙動および赤潮の終息を左右する要因としてウイルスが重要な役割を果たしていることを解明した.また,ウイルスとプランクトンの関係がきわめて複雑であること(=捕食者と被食者のように「出会えば必ず片方が勝つ」というような単純な関係ではないこと),さらにあるウイルスにおいては,カプシドタンパク質の局所的な分子構造の差異が同種異株間における宿主特異性を決定していることを示した.このように,藻類ウイルスは生態系の中でそれぞれに確かな「役割」を持ち,「機能」している.
 水圏環境中のウイルスのうち,現在までにその性状が明らかにされたものはほんの一握りに過ぎない.だがその中には,これまでに調べられてきた陸上ウイルスとは全く異なる新奇なウイルスが存在する.水圏生態系の仕組みに関する理解をさらに深化するために,水圏環境中に存在するウイルスに関する研究の強化を行うことこそが,演者に課されたミッションである.また,ウイルスならびに真核生物の進化学という観点からも,藻類ウイルス研究の中に発見の種は尽きない.今回のセミナーでは,藻類ウイルスを巡る現象論と機構論について概説する.
【演者より一言】
海のウイルスを研究していると,いろいろな皆さんから「珍しいウイルスですね!」とか「面白いウイルスですね!」とか言ってもらえます。ですが,地球に生命をもたらした神様なら,きっとこう言われることでしょう。
「別に珍しくもなければ面白くもない。人間たちがこれまで,自分らに直接関係のあるウイルスにしか興味を持たなかったから,そんな風に見えてるだけだよ。」
たぶんそうなんでしょうね。そうなんだけど,やっぱり彼らはとても珍しくて面白いのです。

世話人: ○河岡義裕(ウイルス感染分野)
 川口 寧 (ウイルス病態制御)