English
Top

パラミクソウイルスの膜融合と病原性に関する研究

学友会セミナー

学友会セミナー:2015年11月26日

開催日時: 2015年11月26日 17:00-18:00
開催場所: 東京大学医科学研究所 総合研究棟 4階 会議室
講師: 渡辺 俊平
所属: Visiting Scientist, Combating Emerging Infectious Diseases, Biosecurity Flagship, Australian Animal Health Laboratory (AAHL), CSIRO, Australia
九州大学大学院 医学研究院 ウイルス学・助教
演題: パラミクソウイルスの膜融合と病原性に関する研究
概要:

エンベロープウイルスは、宿主細胞表面の受容体に吸着後、エンベロープ膜と宿主細胞膜の膜融合を誘起して細胞内へと侵入する。ニパウイルス(NiV)や麻疹ウイルス(MV)等が属するパラミクソウイルス科ウイルスにおいては、GまたはH(またはHN)蛋白質が受容体と結合することでF蛋白質の構造変化が開始されて、F蛋白質の働きにより膜融合が完了する。膜融合はpH非依存性に細胞表面で起こるため、細胞表面に発現するGおよびF蛋白質により、隣接する非感染細胞ともcell-to-cellの膜融合(多核巨細胞形成)が誘起される。従って、ウイルスの感染拡大という観点から、膜融合を亢進する能力をパラミクソウイルスが獲得することは、ウイルスに有利に作用すると推測できる。しかし、膜融合能を亢進した組換えMVは、細胞障害を強く誘導して、培養細胞や動物モデル中において野生型MVよりも早く力価の低下がみられる (J. Virol., 2015)。実際に、急性麻疹患者由来の臨床株ではF遺伝子は高度に保存されており、膜融合のレベルは一定に保たれている。一方、MVが効率的に結合する受容体(CD150やnectin 4)を発現していないヒト中枢神経系においては、MVは巨細胞を形成せず、低効率にのみ細胞に侵入する。そのため膜融合の亢進は、効率的なMV感染の広がりに寄与する(J. Virol., 2013, Nat. Commun., 2012)。以上のようにMVの膜融合の強さは、適切なレベルに厳密に制御されながらも、時にその変化が病原性発現に影響を与える。こうした知見を基にして、演者はMVに比較的近縁なNiVの病原性に関する研究を現在進めている。1998-9年にマレーシアで出現したNiVは、2001年以降もバングラディッシュを中心に散発的に報告されており、両地域で分離されたウイルス株は異なる病原性状を持つことが知られている。そこで両株の膜融合レベルの違いに注目して現在研究を進めており、その詳細について紹介したい。また同研究は、豪国連邦科学産業研究機構(CSIRO)のBSL4実験室を利用して行っている。そこで豪国のBSL4施設の状況についても合わせて簡単に紹介したい。

世話人: ○川口 寧(ウイルス病態制御分野・教授)
 河岡 義裕(ウイルス感染分野・教授)