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プロスタグランジンD2による海馬CA1野興奮性シナプス伝達の修飾作用

学友会セミナー

学友会セミナー:2008年01月28日

開催日時: 2008年01月28日 17:00 ~ 18:00
開催場所: クレストホール2階会議室
講師: 坪川 宏 博士
所属: 東北大学大学院情報科学研究科 教授
演題: プロスタグランジンD2による海馬CA1野興奮性シナプス伝達の修飾作用
概要:

プロスタグランジンD2(PGD2)は、哺乳動物において睡眠・体温・痛みなどの調節に関る生理活性物質の1つである。近年、PGD2の受容体が海馬や視床などにも豊富に発現していることが報告されているが、これらの活性化がニューロン機能にどのような変化を引き起こすのかについては調べられていない。そこで我々は、マウス海馬スライス標本を用いて、まずシナプス伝達への修飾作用の有無を検討した。
その結果、CA1野錐体細胞においてはEPSC振幅のゆらぎ(分散)の増大が認められた。この効果は、受容体の特異的アゴニストの投与によっても同様に観察された。受容体の細胞レベルの局在に関しては知見が乏しいが、培養アストロサイトにおいては細胞膜上に発現していると報告されている。そこでグリオトキシンであるフルオロシトルリン酸で前処理したスライス標本を用いてPGD2投与の効果を検討したところ、振幅ゆらぎの増大は全く見られなかった。従って、ゆらぎ増大はアストロサイトの機能修飾を介して生じた可能性が高い。メカニズムに関しては、PGD2投与によってEPSCの反復刺激後増強の減弱は見られたがmEPSCの頻度は変わらなかったこと、AMPA電流の特性には有意な変化が見られなかったこと、またプレシナプスにおける頻回刺激後のCa2+濃度上昇率に一過性の増加とそれに続く減少が観察されたこと等を考慮すると、プレシナプスの発火によるグルタミン酸放出過程が修飾された結果と予想された。一方、thapsigarginや2-APBで前処理したスライス標本では、PGD2投与によるゆらぎ増大が見られなかった。
以上の結果から、PGD2は、シナプス近傍のアストロサイトに存在する受容体を活性化し、アストロサイトもしくはプレシナプスの細胞内Ca2+ストアの機能修飾を介して、伝達物質放出に影響を及ぼすと予想された。

世話人: ○真鍋 俊也、山本 雅