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細胞移植実験で見える腸上皮幹細胞機能

学友会セミナー

学友会セミナー:2015年06月23日

開催日時: 2015年06月23日 17:00-18:00
開催場所: 東京大学医科学研究所 1号館 2階 セミナー室
講師: 中村 哲也 先生
所属: 東京医科歯科大学 消化管先端治療学講座・教授
演題: 細胞移植実験で見える腸上皮幹細胞機能
概要:

ここ10年の間に腸管上皮の研究が飛躍的に進みました。特徴的な陰窩-絨毛構造をとる腸管上皮において、その陰窩底部に存在する上皮幹細胞の分子マーカーが明らかにされ、これを指標に幹細胞を明確に同定し解析することが可能となりました。さらに、長年困難とされてきた正常な腸管上皮細胞の培養技術が開発され、これら細胞の性質や挙動、さらには上皮幹細胞を支持するニッチ因子の理解が大きく進んでいます。
 われわれは、これら幹細胞がもつ組織構築能の解析を目的とし、培養した腸管上皮幹細胞を再びマウス腸管へ移植することに成功しました。その結果、移植細胞が欠損上皮を補充しながら上皮組織を構築すること、1個の幹細胞から増やした細胞群の移植で広汎な組織再生が得られること、かつ移植細胞が長期にわたり組織幹細胞として機能することが明らかとなりました。培養と移植の組合せは、腸管上皮幹細胞の新しい研究手法としても注目されています。本手法を利用することで、胎生期小腸上皮および成体小腸上皮に由来する培養幹細胞も異所性に大腸へ移植可能であること、さらにこの場合には各々に由来する小腸上皮が移植片内で異なる挙動を示すことも明らかとなりました。
 本セミナーでは、培養・移植実験を利用したこれら研究成果について議論したいと思います。本領域のさらなる進展は、腸管上皮幹細胞が頭尾軸に沿う固有のプログラムを維持する機構の理解につながるとともに、重篤な腸管上皮傷害と上皮機能欠損を呈するさまざまなヒト難治性腸疾患に対し、異なる培養細胞を用いる再生医療技術の基礎となるものと考えます。

参考文献
1) Yui S, et al. Nature Medicine. 18(4): 618-623: 2012
2) Fordham RP, et al. Cell Stem Cell. 13(6): 734-744: 2013
3) Fukuda M, et al. Genes & Development. 28(16): 1752-1757: 2014

世話人: ○清野 宏(炎症免疫学分野・教授)
 河岡 義裕(ウイルス感染分野・教授)