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新規がん遺伝子GNB1の同定と解析

学友会セミナー

学友会セミナー:2014年08月28日

開催日時: 2014年08月28日 16:00-17:00
開催場所: 東京大学医科学研究所 2号館 2階 小講義室
講師: 依田 成玄
所属: ダナファーバーがん研究所・リサーチフェロー
演題: 新規がん遺伝子GNB1の同定と解析
概要:

がん遺伝子の同定は、そのがんの病態の理解・診断・創薬治療において極めて重要であるが、これまでに同定された遺伝子は不十分で、まだ多くのがんにおいてがん遺伝子が未同定のままである。我々はこれまでにIL3依存的BaF3細胞を利用した患者由来がん細胞cDNAライブラリースクリーニング系を確立し、急性リンパ性白血病がん遺伝子CRLF2などを同定してきた。今回、希少疾患でありがん遺伝子の解析がなされていない形質細胞様樹状細胞性腫(blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm, BPDCN)のサンプルを用いてスクリーニングを行ったところ、変異を伴う遺伝子GNB1 K89Eを単離することに成功した。GNB1は3量体Gタンパク質のβサブユニット(Gβ)をコードする遺伝子であり、Gタンパク質共役受容体(GPCR)の直下で機能する分子である。これまでに、がんにおいてはαサブユニット(Gα)の変異(例、ぶどう膜悪性黒色腫のGNAQ/11変異、下垂体腺種・膵管内乳頭粘液性腫瘍のGNAS変異 )は知られていたがGβの変異は報告されていなかった。データベース検索の結果、K57E/N/T(10例、骨髄系細胞腫瘍)、K78E/Q(3例)、I80N/T(7例、主にB細胞腫瘍)、K89E/T(4例)、M101T/V(3例)の変異をGNB1および構造がほぼ同じであるGNB2遺伝子に同定した。いずれの変異もGαとの結合領域に存在し、実際に変異GNB1はGαとの結合が強く抑制されていた。αβγの3量体は、GPCRからの刺激により活性化型のαおよびβγへと分離することが知られており、このことから変異Gβは恒常的活性型と推測される。いずれの変異体も、ERKおよびPI3K/mTORシグナルを活性化し、細胞のトランスフォーメーション(サイトカイン非依存的増殖)を誘導できた。生体内での機能を解析するためにマウスの骨髄移植実験を行ったところ、GNB1 K89E、I80T、K89EのいずれもCdkn2a-/-ドナー骨髄細胞を腫瘍化させることに成功した。以上のことから、変異Gβが、がん遺伝子として機能することが明らかとなった。

世話人: ○北村 俊雄(細胞療法分野・教授)
 秋山 泰身(分子発癌分野・准教授)