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東大医科研病院における緩和医療科の創成

学友会セミナー

学友会セミナー:2014年07月03日

開催日時: 2014年07月03日 14:30-15:30
開催場所: 東京大学医科学研究所 1号館 2階 セミナー室
講師: 島田 直樹
所属: 附属病院 緩和医療科・特任助教
演題: 東大医科研病院における緩和医療科の創成
概要:


①日本における緩和医療の現状
日本におけるがんの年間死亡数は30万人を超えるが、終末期がん患者の多くは自宅での療養を望んでいる。さらに高齢化の進行により、終末期の療養場所として医療機関から在宅へのシフトが社会構造上不可避である。一方で、人口の減少・共働き率の増加などを考慮すると、家族だけには頼らない在宅診療システムが必要である。以上より診断時からの切れ目のない緩和ケアを提供するためには、入院機関と在宅診療の医療スタッフの連携システムの構築と緊急時や在宅療養の継続困難時に対応できる施設の充実が必須の課題となっている。
②当院における緩和医療科の取り組み
2012年8月1日に従来の緩和ケアチームを発展させる形で緩和医療科が発足し、10月より緩和医療科病床が稼働した。多職種が連携しつつ、診療・患者の意思決定支援にあたるというIPW(多職種連携協働,Interprofessional Work)のコンセプトのもと、当科では延べ300名以上の入院患者の診療に当たってきた。我々は、症状コントロールを前提として、特に希望者に対しては在宅療養への診療体制の移行を積極的に進めてきた。退院後もケアマネジャー、在宅医、訪問看護師などの在宅医療スタッフと連携を取りつつ、切れ目のない緩和医療の提供を実践している。本セミナーではその現状を紹介する。
③研究の展望
当科では革新的な緩和医療を目指して、各種臨床試験、データベースの構築、検体バンクの作成などの準備が進行中である。以下にテーマの一つを紹介する。

”がん性疼痛に対する遺伝子多型に基づいたオーダーメイド緩和医療”
昨今の分子生物学・ゲノム医学の発展により、分子標的薬を始めとしたがんの個別化医療は急速に進んでいるが、緩和領域においてはその遅れが顕著である。当科ではより先端的な緩和医療の実現を目指して、東京都医学総合研究所と共同でがん性疼痛に対するオーダーメイド緩和医療臨床研究を進めている。具体的には、オピオイドシグナル伝達系の構成分子の遺伝子多型に基づいて、がん性疼痛におけるオピオイドの感受性の個人差を明らかとし、患者個別のオピオイド必要量を予測する。本研究が実現すれば、可能な限り副作用を抑えた迅速な疼痛緩和、過剰投与の防止、無効患者の除外が可能となり、年間死亡者数が30万人を超えるがん患者に多大なQOLの向上が期待できる。

世話人: ○長村 文孝(先端医療開発推進分野・教授)
 東條 有伸(分子療法分野・教授)