English
Top

B細胞活性化を制御する生物学的‘スイッチ’機構

学友会セミナー

学友会セミナー:2014年06月27日

開催日時: 2014年06月27日 17:00-18:00
開催場所: 東京大学医科学研究所 1号館 2階 会議室
講師: 篠原 久明
所属: 理化学研究所横浜研究所 統合生命医科学研究センター
統合細胞システム研究チーム・博士研究員
演題: B細胞活性化を制御する生物学的‘スイッチ’機構
概要:

B細胞は抗体を産生しウイルスなどの病原体から身体を守る。しかしながら健常な人であっても20~50%のB細胞は自分自身を認識し攻撃する可能性がある。B細胞が刺激に対して反応が弱すぎれば免疫不全となり、過剰に反応すれば自己免疫疾患となる。このためB細胞の活性の閾値を制御する分子機構の存在が示唆されていた。
 NF-κBは転写因子の一つであり、機能、増殖、分化、生存を決定する分子として重要である。B細胞では、NF-κBは抗原受容体 (BCR) を介したシグナル伝達系によって活性化され、シグナル分子の機能が欠損すると免疫不全を招き、逆に過活性が起ると代謝性疾患や癌を誘導する。
 遺伝子欠損マウスの定性的な実験は非常に強い証拠を提示することが可能である。しかしながら、正のフィードバックに関わる分子の遺伝子欠損による定性実験では全ての活性が低下するため、論理的に証明することは困難である。
 発表者は定量解析と数理解析を行い、BCRシグナル経路に正のフィードバック機構が存在し、この機構がB細胞の活性の閾値を制御していることを明らかにした。B細胞でのNF-κBの活性化は反応するか、しないかのデジタル反応であり、中間の活性 (アナログ反応) を示さない。このデジタル反応はシグナルの正のフィードバックを抑制することで消失する。つまり、この分子機構がデジタルな反応を統御する‘スイッチ’の役割を果たしていることを明らかにした。
 シグナル動態の制御は、全ての機能を抑制せずに目的の機能を止めることが理論上可能であることが分かってきたことから、魅力的な創薬の標的である。本セミナーでは、NF-κBの動態を含む最新のモデルと知見を合わせて紹介する予定である。

世話人: ○井上 純一郎(分子発癌分野・教授)
 市川 一寿(腫瘍数理分野・特任教授)