概要: |
近年、ゲノム編集法としてdesigner endonucleaseが注目されている。Zinc finger nucleaseやTALE nucleaseがこれにあたるが、これらはDNA結合ドメインがDNAを認識するため、DNA配列により活性に大きな差がでてしまう欠点があった。一方、昨年報告されたtype II CRISPR-Casシステムは、RNAによってガイドされるDNA切断酵素Cas9であり、配列による影響を受けにくく、効率よく二重鎖切断を導入することが可能である(1)。
我々は、このtype II CRISPR-Casシステムを用いてゲノムワイド劣性遺伝子スクリーニング系の構築を行った(2)。各遺伝子あたり最大5個のguide RNA(gRNA)を設計し、マイクロアレイ上で合成された約89,000個のオリゴDNAをレンチウイルスベクターにクローニングし、gRNAライブラリーを作製した。次に、Cas9を発現するマウスES細胞にレンチウイルスライブラリーを感染させ、変異細胞ライブラリーを作製した。この変異細胞ライブラリーでは、生存に必須な遺伝子群に対するgRNAの頻度が顕著に低下しており、遺伝子変異が導入されていることが確認された。劣性遺伝子スクリーニングとして、Clostridium septicum由来alpha-toxin、あるいは、核酸アナログ6-thioguaineに耐性を示す変異細胞を取得し、耐性に関与する既知遺伝子群、さらにalpha-toxinに関しては毒素感受性に関わる新たな遺伝子を同定することに成功した。
これまでRNAiを用いた劣性遺伝子スクリーニングが幅広く行われてきたが、不完全な遺伝子抑制とオフターゲット効果の二つの欠点が指摘されていた。CRISPR-Casシステムを用いたスクリーニング系ではこれらの問題がなく、今後RNAiに代わる新たな遺伝子探索法として幅広い分野で応用されると期待される。
(セミナーは英語で行われる予定です。)
参考文献
1. Multiplex genome engineering using CRISPR/Cas systems.
Cong L, Ran FA, Cox D, Lin S, Barretto R, Habib N, Hsu PD, Wu X, Jiang W, Marraffini LA & Zhang F.
Science. 2013. 339:819-823
2. Genome-wide recessive genetic screening in mammalian cells with a lentiviral CRISPR-guide RNA library.
Koike-Yusa H, Li Y, Tan EP, Velasco-Herrera MD & Yusa K.
Nature Biotechnol. 2014. 32:267-273 |