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1.遺伝性網膜変性疾患の遺伝子解析(村上 晶)

学友会セミナー

学友会セミナー:2014年02月18日

開催日時: 2014年02月18日 19:00-20:15
開催場所: 東京大学医科学研究所 合同ラボ棟 3階 セミナー室
講師: 1.村上 晶
2.神野 英生
所属: 1.順天堂大学医学部 眼科学講座・教授
2.東京慈恵会医科大学 眼科学講座・医員
演題: 1.遺伝性網膜変性疾患の遺伝子解析(村上 晶)
2.網膜変性におけるマイクログリア活性化と視細胞死の関連(神野 英生)
概要:

1. 遺伝性網膜変性疾患の遺伝子解析(村上 晶)

遺伝性眼疾患において、遺伝子治療や原因遺伝子に基づいた薬物療法の治療研究が始まっている。遺伝子の変化を手がかりに病態を解明し、そのメカニズムに基づいた治療を行っていく道筋が見え始めており、遺伝情報に基づいた個別化医療の究極の形として遺伝子治療や再生医療が位置づけられている。網膜変性疾患に対して、原因となる遺伝子の変化を効率よく解析するシステムを構築することを目的に、Sanger法によるシークエンスとDNAマイクロアレイリシークエンスによる遺伝子変異解析の検討を行った。また、新たな遺伝情報の解析装置として次世代シークエンサーの可能性を検討した。従来のSangar法により候補遺伝子を逐次解析する方法は、表現型と遺伝子型の相関が明確な例に限り有用であった。一方、DNAマイクロアレイリシークエンスは、一塩基欠損を検出できない等の欠点はあるものの短時間で多数の候補遺伝子についてシークエンス解析を行うことが可能であった。解析の速度と精度をあげるためには、次世代シークエンサーの応用が期待されるが、大量に得られる遺伝情報をどのように迅速に分析し意味付けをして診療に役立てることができるかが課題となる。

2. 網膜変性におけるマイクログリア活性化と視細胞死の関連(神野 英生)

加齢黄斑変性(AMD)や網膜色素変性症(RP)などを含む網膜変性は失明へとつながる難治性疾患である。AMDは近年患者数の増加傾向に伴い社会的重要度が高まっている。またRPは患者数は少ないものの若年発症をきたすことにより患者への影響は大きく治療法の開発が待たれている。両疾患共に視力障害への直接原因となる網膜視細胞の細胞死“視細胞死”を生じるためにどのように視細胞を細胞死から保護するのかを考える必要がある。
近年の遺伝学的な進捗により両疾患の発症原因となりうる多種多様な遺伝子異常が数多く報告されている。しかし網膜変性が異なる機能を持つ遺伝子異常により発症するにもかかわらずその疾患表現型は似通っている。我々はそのことに対し疑問を抱き網膜変性が起こる過程で2次的な共通機構が働くためではないかと推察した。そしてなにが共通機構として成り立つのかをVisual cycle 関連遺伝子異常および Phagocytosis 遺伝子異常という全く異なる機能の遺伝子異常により生じる網膜変性モデルマウスを用い検討した 。   
Visual cycle 関連遺伝子異常により網膜変性を生じるAbca4-/-Rdh8-/- およびPhagocytosis 遺伝子異常により網膜変性を生じる Mertk-/-マウスの網膜表現型を観察したところ、両マウスにて外顆粒層の菲薄化および円形自発蛍光の集積が観察された。円形自発蛍光はRPEフラットマウントにてIba1およびF4/80両陽性の網膜下侵入マイクログリアであることが示された。また、両マウスにおいて定量RT-PCRにより共通の炎症関連分子の上昇が認められ、マイクログリア由来の網膜内炎症が両網膜変性モデルにおける共通要因であることが判明した。
本講演においてはさらになぜ網膜変性において炎症が生じるのか、今後の網膜変性に対する新規治療戦略の可能性などをお示ししたい。

世話人: ○渡辺 すみ子(再生基礎医科学寄付研究部門・特任教授)
 大津 真(ステムセルバンク・准教授)