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がん患者に対する支持療法~QOL維持を目指して~

学友会セミナー

学友会セミナー:2014年01月07日

開催日時: 2014年01月07日 19:00-20:00
開催場所: 東京大学医科学研究所 1号館 2階 セミナー室
講師: 石木 寛人
所属: 東京大学医科学研究所附属病院 緩和医療科・特任研究員
演題: がん患者に対する支持療法~QOL維持を目指して~
概要:

近年のがん治療は治療強度を増す方向で開発されており、それは「人間の耐えられる限界(the upper limit of human tolerance)」とすら言われている。新規薬剤開発が予後を延長してきたのは確かであるが、安全に治療を行うためには患者教育と支持療法が肝要である。治療の成功と患者のQOL維持のために我々がこれまで行ってきた取組について、本セミナーでは以下の2つの臨床研究の結果を紹介する。
1) フローチャート型パンフレットを用いた患者教育
2) 終末期がん患者の栄養管理 
1)フローチャート型パンフレットは薬物療法を行うがん患者に対し、予期される有害事象とその対応策についてまとめた冊子である。この冊子に基づく患者教育の有効性をhistorical dataと比較検討した。フローチャート群(FC群, n=49, 139cycles)と非フローチャート群(nonFC群, n=60, 163cycles)を比較すると、FC群で緊急入院の率が有意に低下した(1% vs 16%; p<0.01)。電話連絡の頻度はFC群で増加し(16% vs 7%; p<0.01)、その連絡内容は妥当なものだった。これらの結果からフローチャート型パンフレットを用いた患者教育により、治療アドヒアランスが向上していると考えられた。
2)終末期がん患者に対する経管栄養や輸液は患者のQOLを低下させる。経口摂取量が減少した終末期がん患者に対しアミノ酸ゼリー飲料(インナーパワー; IP)または経腸栄養剤(エンシュア・リキッド; EL)による栄養サポートを(EL群(n=8); エンシュアリキッド内服, IP群(n=5); IP摂取, EL+IP群(n=8); エンシュアリキッド内服後IP摂取)の3群にランダムに割り付け、栄養サポート期間を調べた。その結果、主要評価項目であるDiv free survivalはEL群, EL+IP群, IP群 それぞれ0.5,4.5,6.0日(中央値)で3群間に有意差が認められた (p=0.050)。栄養サポートから死亡までの期間はEL群, EL+IP群, IP群それぞれ7,8,9日であった。この結果、IPはELに対し輸液が不要の期間を延長し、予後に影響を及ぼさないことが示唆された。

世話人: ○今井 浩三(附属病院病院長、特任教授)
 田中 廣壽(抗体・ワクチンセンター 教授)