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ヒトES細胞の未分化性維持に必須なTGF-シグナルの下流エフェクターSmad2とSmad3の機能的差異と新機能

学友会セミナー

学友会セミナー:2012年06月19日

開催日時: 2012年06月19日 13:00-14:00
開催場所: 東京大学医科学研究所 2号館 大講義室
講師: 湯本 真代
所属: The Eli and Edythe Broad Center of Regeneration Medicine and
Stem Cell Research, Department of Cell and Tissue Biology 
University of California at San Francisco
演題: ヒトES細胞の未分化性維持に必須なTGF-シグナルの下流エフェクターSmad2とSmad3の機能的差異と新機能
概要:

胚性幹(ES)細胞は自己複製能と多能性の二つの性質(以下、幹細胞性)をかね備える万能細胞として、長年、再生医療への応用が期待されてきた。一方で、倫理的視点からヒトES細胞の使用には多くの制限が設けられ、マウスES細胞と比較してその実態解明は遅れている。2006年に京都大学の山中教授により開発されたinduced pluripotent stem cells (iPS細胞)は、倫理問題の回避と同時に、オーダーメイド医療実現の可能性も生み、ヒトES細胞の代替として近年さらなる注目を集めている。一方、iPS細胞の臨床応用には、体細胞の完全なリプログラミングとリプログラミング後のiPS細胞の安定な維持が不可欠である。よって、マウスES細胞での基礎研究同様、ヒト多能性幹(ES/iPS)細胞における幹細胞性維持機構の解明は最重要課題である。
 ヒト多能性幹細胞とマウスEpiblast stem cells (EpiSCs)は共に、TGF-シグナルに依存して幹細胞性を維持する。演者は、ヒトES細胞株 H9とマウスEpiSCsを用い、TGF-シグナルの下流で働くエフェクターSmadの幹細胞性維持における新しい作用機構を解明した。また、これら二つの細胞株はマウスES細胞様状態へ転換可能なことが知られているが、その機構は不明であった。上記、研究過程において、SmadはこのヒトES細胞様からマウスES細胞様への転換においても重要な役割を果たしていることが明らかとなったので、これも合わせて紹介したい。ヒト多能性幹細胞をマウスES細胞様へ転換することは、培養の簡便化とコスト削減に加え、従来マウスES細胞で用いられてきた相同組換による遺伝子改変技術を、ヒトES細胞やヒトiPS細胞へ適用する可能性も秘めている。また、リプログラミングの不完全なiPS細胞をより未分化な状態へ誘導する技術の開発に寄与する可能性も持つ。本セミナーでは、ヒト多能性幹細胞の最新の知見も含め、TGF-シグナルの下流エフェクターSmad2とSmad3の新機能について概説したい。

世話人: ○吉田 進昭(発生工学研究分野 教授)
 中内 啓光(幹細胞治療分野 教授)