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癌および先天性Ras-MAPK症候群におけるMEK異常活性化機構の解析

学友会セミナー

学友会セミナー:2012年05月02日

開催日時: 2012年05月02日 16:00-17:00
開催場所: 東京大学医科学研究所 1号館 2階 セミナー室
講師: 久保田 裕二
所属: 名古屋大学環境医学研究所 分子シグナル制御分野
演題: 癌および先天性Ras-MAPK症候群におけるMEK異常活性化機構の解析
The molecular mechanism of MEK hyper-activation in the congenital Ras-MAPK syndromes and sporadic cancers
概要:

ERK-MAPキナーゼ経路(Raf-MEK-ERK)は、様々な増殖刺激によって活性化されるシグナル伝達システムであり、細胞増殖を制御すると共に、その異常な活性化が発癌に深く関与することが知られている。我々は最近、ERK経路の新たな活性制御機構として、この経路のMAPKKであるMEK1およびMEK2が、細胞内でSUMO化される事を見出した。SUMO化は、ユビキチン様分子であるSUMOが、そのC末端のグリシン残基を介して標的蛋白質分子内のリジン残基にイソペプチド結合する翻訳後修飾である。興味深い事に、SUMO化されたMEKは基質であるERKとの結合能がほぼ完全に消失して、そのキナーゼ活性が顕著に阻害される事が分かった。更に我々は、癌遺伝子RasがMEKのSUMO化を抑制する事を見出し、実際にRasに活性型変異を有する様々なヒト癌細胞においてMEKのSUMO化が消失している事を確認した。反対に、MEKのSUMO化を人工的に亢進させるとRasの癌化活性が抑制された事から、癌遺伝子RasはRafを活性化すると同時に、MEKのSUMO化修飾による不活性化を阻止するという二重の機構によってERK経路を強く、かつ効率良く活性化し、発癌を招く事が明らかとなった。
 近年、Ras-MAPK症候群と呼ばれる先天性疾患や孤発性癌において、MEK1及びMEK2遺伝子のミスセンス変異が多数見出され、これらの点変異によってMEK活性が異常に亢進する事が報告されている。我々は各変異体のSUMO化やリン酸化動態を解析する事により、遺伝子変異がMEKの異常活性化を導く分子機構についても新たな知見を得たので併せて紹介したい。

世話人: ○斎藤 春雄(分子細胞情報分野 教授)
 武川 睦寛(分子シグナル制御分野 教授)