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腸管粘膜固有層における樹状細胞の免疫活性化機構

学友会セミナー

学友会セミナー:2012年03月01日

開催日時: 2012年03月01日 17:00~18:00
開催場所: 1号館2階会議室
講師: 植松 智
所属: 大阪大学免疫学フロンティア研究センター
自然免疫学・特任准教授
演題: 腸管粘膜固有層における樹状細胞の免疫活性化機構
Immune activation by dendritic cells in intestinal lamina propria
概要:

腸管は食物の吸収や常在細菌叢との共生のため、免疫寛容を誘導して炎症などを抑制する一方で、侵入してくる病原体に対しては適切に認識を行い、免疫反応を誘導して排除を行う。しかし、腸管、特に粘膜固有層においてどのような細胞が病原体を認識するか、またいかにして免疫寛容を凌駕し免疫系を活性化させるかについては殆ど分かっていなかった。Toll-like receptor(TLR)は自然免疫系の重要な受容体ファミリー群の1つで、様々な病原体の構成成分を認識し全身の免疫応答の誘導を開始する。TLR5は、細菌の鞭毛構成タンパク、フラジェリンを認識する。他のTLRと異なり、TLR5は小腸粘膜固有層のCD11c+細胞に特異的に発現していることが分かった。CD11c+細胞は鞭毛を使って腸管に侵入してくる病原細菌を感知し、自然免疫応答を誘導していた。一方、強毒菌のSalmonella typhimuriumはCD11c+細胞に寄生し、TLR5の活性化を通じてCD11c+細胞を「キャリアー」として利用し全身に感染を拡げていくことも明らかになった。次に、我々は、小腸粘膜固有層から自然免疫細胞を単離する技術を確立し、粘膜固有層のCD11c+細胞はCD11cとCD11bの発現パターンによって、2種類の樹状細胞(CD11chighCD11blowとCD11chighCD11bhigh)、CD11cintCD11bint マクロファージ、CD11cintCD11bhigh 好酸球の4つのサブセットに分かれることを見いだした。TLR5発現細胞は、CD11chighCD11bhighの樹状細胞であった。この樹状細胞はレチノイン酸を産生する特殊な能力を持ち、粘膜固有層におけるIgA産生形質細胞の分化や、抗原特異的なTh1細胞とTh17細胞の分化をTLR5刺激依存的に誘導することが分かった。一方、粘膜固有層のもう一つの樹状細胞であるCD11chighCD11blowサブセットは、CD11chighCD11bhighサブセットよりもかなり数が少なく、CD8陽性の樹状細胞であった。この細胞は、TLR3,7,9を発現し、Th1応答、抗原特異的IgG、細胞傷害性T細胞活性を誘導することが分かった。しかしながら、細胞傷害性T細胞活性は、CD11chighCD11bhighサブセットに比べて遥かに弱かった。このように、小腸粘膜固有層に存在する2種類の樹状細胞を同定し、免疫活性化における役割を網羅的に解析した。CD11chighCD11bhigh樹状細胞は、小腸粘膜固有層のメジャーな抗原提示細胞であり、抗原特異的なIgG産生に加えてIgAを誘導出来ること、細胞内寄生菌の排除に関わるTh1 応答に加えて細胞外寄生菌の排除に重要と考えられているTh17応答を誘導出来ること、そして強い細胞傷害性T細胞活性があることから、量的、質的な観点から今後の粘膜ワクチンの標的として重要な細胞であることが示唆された。今後、マウス小腸に存在する他の2つのブセット、CD11cintCD11bint マクロファージとCD11cintCD11bhigh 好酸球の機能解析を行うとともに、サブセット間のクロストークも考慮し、マウスの腸管粘膜における免疫制御の仕組みを明らかにしていきたい。

世話人: ○ 清野 宏(炎症免疫学分野 教授)
北村 俊雄(細胞療法分野 教授)