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肝細胞癌治療の最適化を目指した研究

学友会セミナー

学友会セミナー:2012年01月25日

開催日時: 2012年01月25日 15:00-16:00
開催場所: 東京大学医科学研究所 1号館 2階 セミナー室
講師: 古田 寿宏
所属: 国立がん研究センター東病院 臨床開発センター 機能診断開発部
演題: 肝細胞癌治療の最適化を目指した研究
概要:

肝細胞癌の治療法として第一選択となるのは外科手術であるが、その他にも、病態に応じて様々な治療法が選択される。症例の多くは肝硬変を伴っており肝予備能が低く、どの治療法においても肝機能を温存しながら癌を制御することが求められる。肝細胞癌に対する治療のうち、放射線医学的観点より肝動脈化学塞栓療法のための脈管走行の解析および学習ツールの開発、放射線治療効果判定のための酸化鉄造影剤を用いた新規診断法について本セミナーで述べる。
 動注化学塞栓療法は肝細胞癌の治療法として重要な選択肢の一つであり、欧米ではmicrosphereを用いた放射線塞栓療法も注目されてきている。目標とした領域を正確に塞栓する、あるいは肝以外の臓器へ分布する動脈を誤って塞栓し発生する重篤な合併症を避けるために、肝動脈や関連する動脈枝および肝区域の解剖を理解しておくことは重要である。我々は約5,000症例から抽出した画像データよりデータベースを構築し、肝動脈の主要な枝の形態的特徴と走行、肝区域の形態的特徴を検討した。さらにデータベースを基に簡便なインタフェースを兼ね備えた学習用ツールを作成した。学習者はこのツールを用いて肝動脈と紛らわしい、塞栓してはいけない動脈を容易に見分けることも可能になる。システムの概略と得られた知見について述べる。
 定位放射線治療や粒子線治療の発達により、放射線治療は肝細胞癌の局所療法としての有効性が報告されてきている。肝細胞癌の局所療法においては癌の存在範囲よりも広く治療域を設定し、その結果非癌部肝実質に治療マージンと呼ばれる損傷範囲が惹起される。我々は、MRIにおいてSPIO(超常磁性酸化鉄製剤)が肝のクッパー細胞に集積した後、肝外へ洗い出される速度が損傷部と非損傷部で異なるだろうという仮説を立て、放射線治療における治療マージン描出を目指し、動物実験を行った。具体的には、あらかじめラットにSPIOを投与しておき、塩化ガドリニウム投与またはX線照射でクッパー細胞に障害を与え、SPIOが肝外へ洗い出される過程をMRIで観察した。結果、塩化ガドリニウム投与またはX線照射により、SPIOの肝外への洗い出しが正常と比べて遅延することが示された。この研究の詳細と臨床応用への可能性について述べる。

世話人: ○今井 浩三(病院長・教授)
 桐生  茂 (放射線科 准教授)