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エピジェネティクス異常は腫瘍の進展に重要である

学友会セミナー

学友会セミナー:2011年05月19日

開催日時: 2011年05月19日 18:00-19:00
開催場所: 東京大学医科学研究所 1号館 2階 会議室
講師: 谷口 博昭 博士
所属: 「抗体・ワクチン治療」 寄付研究部門
演題: エピジェネティクス異常は腫瘍の進展に重要である
(Epigenetic abnormality plays an important part in advance of cancer)
概要:

 エピジェネティックな異常は腫瘍形成に重要な機序である。腫瘍において観察される代表的なエピジェネティック異常は、DNAのメチル化とヒストン修飾の異常である。実際、今までに、腫瘍形成に重要性が指摘されている多くの分子のエピジェネティックな異常が報告されてきた。今まで消化器腫瘍を中心に、WNTシグナルに関して、シグナルを負に調節するWIF-1 (Wnt inhibitory factor-1)を始めとする複数の腫瘍抑制遺伝子、さらに、Hedgehogシグナルに関してHHIP (Hedgehog interacting protein)のエピジェネティックな異常を報告してきた。これらのDNAメチル化異常に関しては、消化器腫瘍の早期診断マーカーとしての価値も報告されている。また、血液腫瘍において、概日リズムでコアクロックを形成している転写因子であるBMAL-1(brain and muscle aryl hydrocarbon receptor nuclear translocator (ARNT) like-1)のエピジェネティックな異常を報告すると同時に、その腫瘍抑制遺伝子としての機能を世界に先駆けて証明した。
 これらの研究を進めるうちに、異常メチル化の標的になる遺伝子は、細胞の分化に関与する遺伝子であることが多い印象を受けた。同時に、胚性幹細胞において特定のヒストンメチル化修飾を受ける遺伝子が、腫瘍においてDNAメチル化の標的となる遺伝子とかなり共通しているという報告が相次いだ。そこで、ヒストンメチル化修飾酵素であり、腫瘍の悪性形質に深く関与することが判明していた、ポリコーム遺伝子であるEZH2 (Enhancer of zeste homolog 2)に着目し、その標的遺伝子の同定からEZH2の機能を追求することとした。
 その結果、EZH2により直接的に転写抑制を受ける転写因子を同定した。同因子は、正常細胞に恒常的に発現しており、腫瘍の成長、転移を強く抑制する機能を有していた。また、DNAメチル化の変化を受けないことから、腫瘍の治療標的として現在、検討を進めている。
 この分子は幹細胞の維持に関与することが知られており、癌幹細胞を標的とする治療法へ発展する可能性を秘めている。

世話人: ○清木 元治(腫瘍細胞社会学分野 教授)
 津本 浩平(疾患プロテオミクスラボラトリー 教授)