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シグナル伝達因子TRAF6による骨代謝及び免疫・炎症反応の制御機構の解明

学友会セミナー

学友会セミナー:2011年02月04日

開催日時: 2011年02月04日 15:00-16:00
開催場所: 東京大学医科学研究所 1号館 地下 会議室
講師: 合田 仁
所属: 東京大学医科学研究所 癌・細胞増殖部門 分子発癌分野
演題: シグナル伝達因子TRAF6による骨代謝及び免疫・炎症反応の制御機構の解明
概要:

 シグナル伝達因子TRAF6 (TNF receptor-associated factor 6) は、TNF受容体family やIL-1R/TLR familyの下流で機能し、主に転写因子NF-B、AP-1の活性化を誘導する。これまで我々は、TRAF6欠損マウスの表現型解析から、TRAF6は骨代謝、免疫・炎症反応、胸腺構築、リンパ節や汗腺などの器官形成等、多岐にわたる生理機能を担っていることを明らかにしてきた。本セミナーでは、TRAF6による骨代謝及び炎症反応の制御機構について、これまで得られた研究成果を紹介するとともに、それらの応用面について議論する。
 骨吸収を担う破骨細胞は巨大な多核細胞であり、骨髄単球系前駆細胞より受容体RANKとそれに直接会合するTRAF6を介したシグナルにより分化誘導される。一方、破骨前駆細胞には、RANKと相同性を有しTRAF6と会合する受容体CD40も発現しているが、CD40は破骨細胞誘導活性を持たない。我々は、RANKシグナルとCD40シグナルの比較解析を行い、RANK細胞質領域において、破骨細胞分化誘導に必須である新たな機能領域HCR (Highly conserved domain in RANK) を見出した。HCRはTRAF6シグナルを増強させることによりNF-B活性化を持続させ、破骨細胞形成を誘導することを明らかにした。さらに、HCRドメインの強制発現により破骨細胞形成が阻害されたことから、HCRを介したTRAF6シグナル増強システムは、破骨細胞形成異常に起因する種々の骨疾患に対する新規治療標的となる可能性が強く示唆された。
 一方、これまで我々は、受容体IL-1R/TLRを介した炎症性サイトカンの誘導にはTRAF6を介したNF-B活性化が必須であることを明らかにしてきた。TRAF6はRING finger domainを介して、lysine 63 (K63) 型ポリユビキチン化を誘導するユビキチンリガーゼ活性を有する。我々は、IL-1刺激下でのK63型ポリユビキチン化標的因子としてTAK1を見いだした。さらに、TRAF6によるNF-B活性化シグナルは、TAK1ユビキチン化を介する経路 (RING経路)と、ユビキチン化を介さないTRAF6 Zinc finger依存的な経路 (Zinc 経路)の2者に分かれることを見出した。加えて、IL-1刺激によって誘導されるNF-B標的遺伝子の中には、両経路への依存度が異なるものが存在することを明らかにした。これらの結果は、TRAF6が2つの異なる経路を介してNF-B活性化を緻密にコントロールし、炎症・免疫反応の制御に関わることを強く示唆している。

世話人: ○岩本 愛吉(感染症分野 教授)
 山本 雅 (癌細胞シグナル分野 教授)