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蛋白質工学的アプローチに基づいたHIV-1エンベロープ蛋白質の構造・機能解析

学友会セミナー

学友会セミナー:2010年05月11日

開催日時: 2010年05月11日 16:00-
開催場所: 東京大学医科学研究所 1号館2階 会議室
講師: 近藤 直幸
所属: 東京大学医科学研究所 アジア感染症研究拠点
演題: 蛋白質工学的アプローチに基づいたHIV-1エンベロープ蛋白質の構造・機能解析
概要:

AIDSの原因ウイルスであるHIV-1の感染にはエンベロープタンパク質 (Env) を介した膜融合が必須であり、Envの構造及び機能の理解はワクチンや膜融合阻害剤の開発に極めて重要である。しかし、結晶構造解析を含めたHIV-1 Envの全体構造の詳細は不明であり、各ドメイン間の機能相関を含めたEnvの分子レベルでの機能解析は未だ達成できていない。本発表では、2つの蛋白質工学的アプローチを用いたHIV-1 Envの構造・機能相関解析を紹介する。第1の構造的アプローチはHIV-1 Envを含む難溶性タンパク質の可溶化・結晶化を促進する高度好熱菌 (Tth) 由来のタグタンパクの開発である。Tth は構造ゲノム研究の代表的モデル生物であり、Tthのタンパク質については豊富なデータが蓄積されている。我々はこのデータをもとに、Tthタンパク質の新規タグ蛋白質としての応用を検討し、従来のタグでは可溶化できなかったHIV-1 Envの膜貫通ドメインの可溶化・精製および微細結晶生成に成功した。現在構造解析に向けてさらなる条件検討を進めている。第2は機能的アプローチであり、HIV-1膜融合のリアルタイム解析を目的とした新規レポーター蛋白質の開発である。ウミシイタケ・ルシフェラーゼおよびGFPの立体構造情報に基づいてそれぞれの分割断片のキメラ(デュアルスプリットプロテイン、DSP)を設計し、DSPは膜融合の際に自己会合することにより両者の機能を回復した。DSPを発現する細胞を用いてHIV-1 Envのgp41変異体のリアルタイム膜融合解析を行ったところ、gp41膜貫通部分の変異がアロステリックに作用し、gp41のみでなく膜貫通部分とは遠く離れたgp120の機能にも影響を与えることが明らかになった。今回開発された解析系は、他のウイルスのエンベロープやエンベロープ以外による膜融合過程の解析にも応用可能である。また、この簡便かつ定量的解析系は膜融合阻害薬のハイスループットスクリーニングにも応用可能である。

世話人: 岩本 愛吉 (アジア感染症研究拠点/感染症分野 教授)
山本 雅  (癌細胞シグナル分野 教授)