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AAVベクターによるフェニルケトン尿症に対する遺伝子治療研究

学友会セミナー

学友会セミナー:2010年01月27日

開催日時: 2010年01月27日 16:00-17:00
開催場所: 総合研究棟2階会議室
講師: 望月 慎史
所属: 埼玉県立小児医療センター 血液・腫瘍科
演題: AAVベクターによるフェニルケトン尿症に対する遺伝子治療研究
概要:

フェニルケトン尿症(PKU)は常染色体劣性の先天性アミノ酸代謝異常症である.無治療で経過すると,Phiの蓄積による中枢神経系の障害のために重度の精神発達遅滞や多彩な神経症状を来し,またメラニン合成障害による色素欠乏を呈することが知られている.現在根治療法は存在せず,食餌療法が確立されているものの現実的には管理は非常に困難であり,患者のQOL向上のためには新たな治療法開発が望まれている.このため根治療法として遺伝子治療が期待され,これまで様々な前臨床研究が行われたが実用化には至っていない.我々は,病原性を持たず,非分裂細胞においても長期の遺伝子発現が期待できるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに着目し,血清型やプロモーターの最適化による発現効率の検討を行ってきた.その結果をもとにフェニルケトン尿症モデルマウス(PAHenu2)に対する遺伝子治療の検討を行った.
 マウス型PAHを発現するAAV5型ベクターを作製し,雌雄のPKUモデルマウスに対しAAVベクターを投与量ごとに各群4~5匹ずつ経門脈的に肝臓に投与したところ,全ての群で投与2週後より血中Phe濃度の低下が見られ,この効果はベクターの投与量に依存していた.また同時期より体毛色も正常化した.雄マウスにおいては40週を超えて血中Phe濃度,体毛色共にその治療効果は持続した.加えて,モデルマウスで減少していた24時間の自発運動と探索運動がいずれも完全に正常化していた.これらの結果から,AAVベクターを用いた遺伝子導入により長期間高Phe血症や色素欠乏を是正することのみならず,その中枢神経機能の改善も得られることが初めて示された.

世話人: 中内啓光、辻浩一郎(○)