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mTOR complex 2の構成タンパクの同定と機能解析

学友会セミナー

学友会セミナー:2009年11月05日

開催日時: 2009年11月05日 18:00- 19:00
開催場所: 1号館2階会議室
講師: 池上 恒雄 博士
所属: 東京大学大学院医学系研究科消化器内科
演題: mTOR complex 2の構成タンパクの同定と機能解析
概要:

PI3K-AKTシグナルは細胞生存、増殖、分化など多様な生体機能を制御しているが、種々の癌においてPTENやPIK3CA変異あるいはRAS変異により活性化されていることが知られている。このシグナル伝達経路の下流に位置するmTORは当初S6Kや4E-BPをリン酸化して、タンパクの翻訳、合成を促進するキナーゼと認識されていた。しかし近年、mTORは細胞内で相互排他的な二つの複合体mTOR complex 1(mTORC1)とmTORC2として存在し、従来より知られていたmTORの働きはmTORC1によるものであり、新たに発見されたmTORC2は長い間未知であったAKTのhydrophobic motif (Ser473)に対するキナーゼであることが明らかとなった。
我々は、mTORC2の複合体形成と活性の維持に不可欠な構成タンパクの一つであるSin1を見出すとともに、mTORC2がAKTやPKCの種々のisoformの活性に重要なhydrophobic motifのみならず、それらのキナーゼの安定性に重要なturn motifのリン酸化をも制御していることを明らかにした。このことはmTORがタンパクの翻訳、合成など従来から知られている機能以外にAKTを介した細胞生存、アポトーシスの制御、PKCを介した細胞骨格の制御など多様な細胞機能に重要な働きを有することを示している。
mTORC1阻害剤であるrapamycinの誘導体everolimusやtemsirolimusは種々の癌で臨床試験が進められているが、細胞によってはmTORC2も阻害することが知られている。また、PTENノックアウトマウスに形成される腫瘍がmTORC2の構成タンパクのノックアウトにより抑制されることが報告されており、PI3Kシグナルに“addiction”のあるような一部のヒトの癌においてmTORC2阻害が有力な治療となりうる可能性がある。

世話人: ○古川洋一、東條有伸