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酵母における高浸透圧応答HOG MAPK経路の活性化とシグナル特異性決定の分子機構

学友会セミナー

学友会セミナー:2009年06月09日

開催日時: 2009年06月09日 16:00-17:00
開催場所: 1号館2Fセミナー室
講師: 舘林 和夫
所属: 東京大学医科学研究所 分子細胞情報分野
演題: 酵母における高浸透圧応答HOG MAPK経路の活性化とシグナル特異性決定の分子機構
概要:

細胞が絶えず変化する外部環境に適切に適応するためには、外部環境をモニターし、その情報を迅速に細胞質や細胞核に伝達する必要がある。すべての真核生物に存在するMAPキナーゼ(MAPK)経路は、そのような重要な情報伝達機構の一つである。調べられた全ての生物種において数種類のMAPK経路が共存し、それぞれ異なる刺激に対応した多様な機能を担っている。なかでも、紫外線、浸透圧、毒素など様々な物理化学的ストレスに応答するストレス応答MAPK経路(SAPK経路)は、ほ乳類細胞から酵母細胞まできわめてよく保存されている。
 高浸透圧環境によって活性化される出芽酵母のHOG MAPK経路は、ほ乳類のp38 SAPK経路との相同性が高く、SAPK経路の原型ともいえるものである。HOG経路では、細胞外の高浸透圧環境を相互に独立した2種の浸透圧センサーが感知し、それぞれが異なるMAPKKK(Ste11、あるいはSsk2とSsk22)を活性化する。さらに、それらMAPKKKにより、共通のPbs2 MAPKKおよびHog1 MAPKが順次リン酸化(活性化)されることで浸透圧情報を細胞内・細胞核に伝達する。活性化したHog1は、細胞膜の透過性を調節し、また細胞核においては転写因子をリン酸化して高浸透圧応答遺伝子群の転写を誘導する。また、リン酸化修飾による細胞周期や翻訳の制御などをも介して細胞の高浸透圧適応を可能にする。
 酵母のSte11 MAPKKKは高浸透圧によってのみならず、接合因子や貧栄養条件などによっても活性化されるが、各刺激に応じて異なるMAPKが活性化されることが知られている。我々は、HOG経路をモデル系として用いて、高浸透圧検出機構を解明すると同時に、細胞内に複数存在するMAPK経路の中から外的刺激に応じた適切な経路のみが迅速かつ正確に活性化される分子機構を研究している。その結果、ドッキング・サイトを介したキナーゼ・基質間の特異的結合、アダプター蛋白質、足場蛋白質を介した反応複合体の一過的形成、MAPK間での相互阻害、などの様々な制御機構によって適切な経路活性化が実現することがわかった。本セミナーでは、我々の知見をもとに、ストレス応答MAPK経路の活性化とシグナル特異性決定の分子機構について紹介する。

世話人: 舘林 和夫