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造血器腫瘍、難治性感染症に対する遺伝子細胞治療、幹細胞治療の開発

学友会セミナー

学友会セミナー:2009年05月11日

開催日時: 2009年05月11日 15:30-16:30
開催場所: 総合研究棟2階会議室
講師: 金子 新 博士
所属: 東京大学医科学研究所 幹細胞治療研究センター 幹細胞治療部門
演題: 造血器腫瘍、難治性感染症に対する遺伝子細胞治療、幹細胞治療の開発
概要:

腫瘍性疾患やウイルス・真菌感染症に対する生体防御の主力はTリンパ球による細胞性免疫であるが、難治性腫瘍や感染症においては様々な要因で宿主の細胞性免疫の減弱が起こっており、疾患をより効果的に制御するには、減弱した細胞性免疫の再構築が必要と考えられる。
 広く行われている試みの一つは、免疫系を含む造血機構の再生治療である同種造血幹細胞移植後に、ドナーの新鮮なリンパ球を輸注するドナーリンパ球輸注療法(DLI)である。我々は同種移植後の再発白血病患者に対して、免疫再生による疾患制御を安全に行うことを目的とし、ガンシクロビル(GCV)依存性に特異的細胞死を誘導するヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子を導入したドナーリンパ球輸注療法(TK-DLI)のフェイズI/II臨床研究を行い、その有用性と問題点を明らかにした。一方で、メモリーT幹細胞活性を持つといわれるセントラルメモリーTリンパ球を増幅させる体外遺伝子操作プロトコールを開発し、問題となっていた遺伝子導入Tリンパ球の抗原反応性減弱が回避できることをヒト皮膚片移植NOD/SCIDマウスによる同種移植片対宿主病(GVHD)モデルを用いて示した。現在は同プロトコールによるフェイズI/II臨床研究を準備中である。
 免疫再生のもう一つの試みは、自家Tリンパ球を用いた細胞療法である。近年、腫瘍特異的T細胞レセプター(TCR)遺伝子導入Tリンパ球による自家リンパ球輸注療法が報告され、限られた症例で治療効果を示している。効果を左右する要素の一つが、内在性TCRとの競合による腫瘍特異的TCR発現不良であることが知られており、それを避けるためにTCR遺伝子導入自家CD34陽性造血幹細胞による治療などが検討されている。しかしCD34陽性細胞の増幅技術がまだ確立されていない現段階では、最終的に十分な遺伝子導入Tリンパ球が得られないことが予想される。そこで我々は造血器腫瘍、ウイルス感染症を対象に、最近開発された人工多能性幹細胞(iPS細胞)技術を併用した抗原特異的自家Tリンパ球輸注療法の基礎研究を行っている。iPS細胞の特徴である自己複製能により、大量の抗原特異的自家Tリンパ球が調整されることが期待される。
 その一方で、iPS細胞を用いた治療に特徴的な問題として、未分化細胞による奇形腫形成や分化移植片による予想外の副反応があり得る。我々は上記のHSV-TK遺伝子をiPS細胞に導入し、未分化細胞あるいは分化移植片を選択的にin vivoで除去することが可能なシステムも併せて構築中である。
本セミナーでは細胞性免疫再生への二種類の試みとHSV-TK遺伝子によるin vivo制御法の開発について紹介する。

世話人: 森本幾夫、○中内啓光