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高病原性インフルエンザウイルスによる過剰免疫応答と致死性呼吸不全の発症機構

学友会セミナー

学友会セミナー:2008年11月18日

開催日時: 2008年11月18日  16:45 ~ 17:45
開催場所: 総合研究棟 4階会議室
講師: 今井 由美子 先生
所属: 秋田大学大学院医学系研究科情報制御・実験治療学分野 教授
演題: 高病原性インフルエンザウイルスによる過剰免疫応答と致死性呼吸不全の発症機構
概要:

近年、H5N1鳥インフルエンザのヒトへの感染が多数報告されており、ウイルスが変異してヒトからヒトへ感染するいわゆる“新型インフルエンザ”の大流行が危惧されている。1918年、「スペイン風邪」が歴史的大流行を引き起こし、5,000万人もの死者を出した。「スペイン風邪」とH5N1鳥インフルエンザは症状が酷似し、これらを惹起するウイルスは高病原性インフルエンザ (Highly Pathogenic Influenza: 以下HPI) ウイルスと呼ばれる。実際にH5N1鳥インフルエンザウイルスに感染したヒトの死亡率は、60%にも及ぶ。インフルエンザウイルスは、エンベロープを持つ一本鎖RNAウイルスである。吸着、エンドサイトーシス、遺伝子の複製、放出といった生命サイクルで増殖し、ヒト宿主細胞において様々なシグナル伝達機構を起動させて重篤な呼吸不全、急性呼吸急迫症候群 (ARDS)ならびに多臓器不全といった疾患病態を誘導する。ARDSは、サイトカインの過剰産生、“サイトカインストーム”をはじめとした制御範囲を逸脱した過剰炎症で特徴づけられるが、HPIウイルスがヒトにおいてこのような重篤な疾患病態を惹起する宿主応答機構に関しては未解明の点が多い。
私共は、最近、マウスICUモデルシステムを用いて、本来ウイルス感染に対して防御的に作用することが知られている自然免疫を司るToll様受容体4 (TLR4) が、H5N1インフルエンザにおいてはTRIF-TRAF6を介して“サイトカインストーム”を引き起こし肺障害を増悪させること、そしてこの過程に酸化ストレスおよび酸化リン脂質が病因として関与していることを見出したので、今回はその結果を中心に述べる。合わせて、現在進行しているイノシトールリン脂質のHPIウイルスによる宿主応答・シグナル伝達機構における役割に関する研究にも言及したい。

世話人: ○河岡 義裕、清野 宏