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研究活動

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H26年度の業績のトピック
佐藤班員の人工大腸がんに関する研究がNature Medicine誌に掲載されました。

今回、本領域の佐藤班員のグループは、ヒトの大腸幹細胞に体外で遺伝子変異を導入し、がん化過程を人工的に再現することに世界で初めて成功しました。これまでは、5つの遺伝子変異により進行大腸がんに進展すると考えられていましたが、正常な大腸幹細胞に、佐藤班員らが開発したヒトの大腸幹細胞の培養技術を利用し作成した、5つの遺伝子変異を組み込んだ遺伝子改変大腸幹細胞を導入しても、進行大腸がんには進展しないことを突き止めました。一方、体内で発育した大腸腺腫は3つの遺伝子変異を組み込むことで転移を認め、進行大腸がんになっていることが分かりました。このことから、正常な大腸上皮からの発がんには、より多くの遺伝学的な変化が必要であり、既に発育した大腸ポリープはがん化しやすく、その切除が効率的な発がん予防につながることの裏付けとなりました。ヒト大腸上皮の発がんを培養皿の中で人工的に再現することに成功し,世界で初めて遺伝子変異導入による大腸発がんに対するインパクトを検証し,その発がん機構の一端を明らかにしました.

これら一連の研究は、加齢に伴って増加する大腸の発癌機構の解明につながる重要な知見です。

Matano M, Date S, Shimokawa M, Takano A, Fujii M, Ohta Y, Watanabe T, Kanai T, Sato T. Modelling colorectal cancer using CRISPR-Cas9-mediated engineering of human intestinal organoids. Nat Med. 2015;2:256-62.
http://www.nature.com/nm/journal/vaop/ncurrent/full/nm.3802.html


岩間班員の骨髄異形成症候群に関する研究がNature CommunicationsとBlood誌に掲載されました。

今回、本領域代表者の岩間班員のグループは、高齢者に頻発する造血幹細胞のクローナル腫瘍である骨髄異形成症候群 (Myelodysplastic syndrome: MDS) の発症に関わるエピジェネティック異常とスプライシング異常の検証を行い、その発症機構の一端を明らかにしました。

MDSは加齢に伴い造血幹細胞に遺伝子変異が蓄積し発症する造血疾患であり、高齢化に伴い急増している疾患の一つです。岩間グループは、MDSで頻繁に認められるポリコーム遺伝子EZH2の機能喪失型変異の意義を、Ezh2欠損マウスを用いて解析し、Ezh2の機能低下が共存するRUNX1変異と協調してMDSの発症を促進すること、その機序の一つとして、Ezh2欠損MDSクローンから産生される炎症性サイトカインが残存する正常造血幹細胞と骨髄ニッチの機能を障害することを明らかにしました (Nature Communications)。

また、MDSで頻繁に認められるスプライシング関連遺伝子SF3B1遺伝子変異の意義を、Sf3b1欠損マウスとノックダウン法を用いて解析し、Sf3b1機能が造血幹細胞の維持に必須であること、また、単なるSf3b1機能の低下ではMDS様の病態は再現されないことから、SF3B1遺伝子変異は単なる機能喪失型変異ではなく、何らかの機能獲得型変異(標的RNA特異性の変化等)であることを明らかにしました (Blood)。

これら一連の研究は、加齢造血幹細胞の特性解析につながる重要な知見です。

Sashida G, Harada H, Matsui H, Oshima M, Yui M, Harada Y, Tanaka S, Mochizuki-Kashio M, Wang C, Saraya A, Muto T, Inaba T, Koseki H, Huang G, Kitamura T, and Iwama A. Ezh2 loss promotes development of myelodysplastic syndrome but attenuates its predisposition to leukemic transformation. Nat Commun 5:4177, 2014.
http://www.nature.com/ncomms/2014/140623/ncomms5177/full/ncomms5177.html

Wang C, Sashida G, Saraya A, Ishiga R, Koide S, Oshima M, Ishono K, Koseki H, and Iwama A. Depletion of Sf3b1 impairs proliferative capacity of hematopoietic stem cells but is not sufficient to induce myelodysplasia. Blood 123:3336-3343, 2014.
http://www.bloodjournal.org/content/123/21/3336.long?sso-checked=true


田久保班員の白血病幹細胞の微小環境に関する研究がBlood誌に掲載されました。

幹細胞が加齢から守られるためには、ニッチと呼ばれる幹細胞をサポートする環境が必要であると考えられています。正常な血球産生の際に造血幹細胞とそのニッチが必要であることが知られていますが、白血病でも白血病幹細胞とそのニッチが存在しており、疾患発症や病勢の進展、薬剤抵抗性発揮に重要な役割を果たしていると考えられています。

今回、本領域代表者の田久保班員のグループは、ヒトの造血幹細胞で融合遺伝子BCR-ABLによって発症する慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia; CML)の幹細胞とニッチについての新たな分子機構を明らかにしました。

CMLは造血幹細胞の増殖によって引き起こされる疾患であり、BCR-ABLのチロシンキナーゼ活性の阻害剤(tyrosine kinase inhibitor; TKI)によって白血病幹細胞以外の白血病細胞を死滅することができます。しかし、TKIはCMLの白血病幹細胞に対しては十分に効果を発揮できないことが知られています。田久保グループはマウスモデルを用いた解析からCMLの白血病幹細胞の一部は正常な造血幹細胞と異なり、細胞膜表面にCD25というIL-2というサイトカインの受容体を発現していることを見出しました。CD25陽性白血病幹細胞はCD25陰性白血病幹細胞をサポートすること、異常な肥満細胞への分化能を獲得していることなどからCML固有のニッチが形成されていることを見出しました。マウスCMLモデルをCD25やIL-2の中和抗体で実験的に治療すると生存期間が延長することから、IL-2/CD25シグナルはCMLの病態を制御するメカニズムであると考えられます。さらに、CML患者検体の幹細胞分画にもCD25陽性細胞が含まれており、ヒトCML病態で果たす役割や治療標的としての有用性についても興味が持たれます。

本研究は、造血幹細胞が腫瘍化した際のニッチの特性の理解や、それらを標的とする治療法の開発等につながる重要な知見と考えられます。

#Kobayashi CI, *#Takubo K, Kobayashi H, Nakamura-Ishizu A, Honda H, Kataoka K, Kumano K, Akiyama H, Sudo T, Kurokawa M, *Suda T. The IL-2/CD25 axis maintains distinct subsets of chronic myeloid leukemia-initiating cells. Blood 123:2540-2549, 2014
(#equal contribution, *corresponding author)

http://www.bloodjournal.org/content/123/16/2540.long?sso-checked=true

波江野班員のBRCA遺伝子変異陽性癌に関する数理研究がPLoS One誌に掲載されました。

今回、波江野班員のグループは、BRCA1/2遺伝子に変異が生じることによって乳癌や卵巣癌が生じる数理モデルを構築・解析し、BRCA遺伝子変異陽性癌の発症機構とBRCA関連癌におけるプラチナ製剤やPARP阻害剤に対する耐性獲得機構の一端を明らかにしました。

BRCA1/2遺伝子は相同組換えの機構を介して、エラーを起こさずに誤りのないDNA修復を担っています。これらの遺伝子に突然変異が生じ、BRCA1/2タンパク質が不活性化すると、DNA修復の際に突然変異が生じ易くなることが知られています。波江野グループはこの現象に注目し、BRCA1/2遺伝子変異が起点となって乳癌や卵巣癌が発症する仕組みを分枝過程と確率シミュレーションを用いた解析によって明らかにしました。また、癌進展過程における遺伝子変異獲得の順番の違いによって、プラチナ製剤やPARP阻害剤に対する耐性の生じ易さに違いがあることを数理的に示しました。この結果から、BRCA関連癌において、投薬前に既に薬剤耐性が存在する条件を数理的に示すことに成功しました。

この研究は、加齢に伴いBRCA関連癌が発症し薬剤耐性を獲得する特性の理解につながる重要な知見です。

Yamamoto KN, Hirota K, Takeda S, Haeno H. Evolution of Pre-Existing versus Acquired Resistance to Platinum Drugs and PARP Inhibitors in BRCA-Associated Cancers. PLoS One, 9:e105724, 2014.
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0105724


鍋島班員の顕著な老化症状を示すa-Klothoに関する研究がSCIENTIFIC  REPORTS誌に掲載されました。

今回、本領域の鍋島班員のグループは、顕著な老化類似変異症状を示すα-Klotho変異マウスの発症の分子機構の解明を進め、カルシウムに依存して活性化されるカルパイン1の高度な活性化が重要な要因であることを明らかにしました。

α-Klotho変異マウスでは、動脈硬化、動脈の石灰化、肺気腫、皮膚の加齢性変化、骨密度の低下、短寿命などの顕著な老化症状が観察されますが、カルパイン1の阻害剤を連日投与するとこれらの老化類似症状が大きく改善されることが明らかになり、細胞内の蛋白分解の亢進の意義の一端が解明されました。なお、これらのマウスの更なる解析の結果、成熟後に漸次、症状が現れ、6、7ヶ月で死亡することが明らかになっています。

α-Klotho変異マウスの老化類似症状は生後3週から始まり、その意味では成熟前から老化症状が始まる早老症モデルでした。老化研究のためには一端成熟してから老化症状は始まるモデルが求められており、今回の研究によりモデルとして一歩前進しました。更に遺伝子改変の組み合わせにより、より利用し易い老化モデルの開発を進めています。幹細胞の老化を解析するには、相応しいモデル動物は必須であり、新たに確立されたモデルを班員、並びに興味をもたれた方に供給し、研究の促進を計りたいと考えています。

Nabeshima Y., Washida M., Tamura M., Maeno A., Ohnishi M., Shiroishi T., Imura A., Razzaque MS., Nabeshima Y. Calpain 1 inhibitor BDA-410 ameliorates α-klotho-deficiency phenotypes resembling human aging-related syndromes. Sci Rep. Aug 1; 4: 5847. (2014) doi: 10.1038/srep05847


南野班員の血管老化に関する研究が、米国科学誌「Cell Reports」に掲載されました。
血管の老化は、筋肉のエネルギー消費を妨げることを発見
−肥満や糖尿病を悪化させている可能性−

新潟大学の南野徹教授らは、高カロリー食投与によって引き起こされた血管老化が、筋肉でのエネルギー消費を阻害することをマウスの実験で発見しました。糖尿病やメタボリックシンドロームでは、動脈硬化に伴って血管の老化が進んでいることが、これまでの本研究グループの報告などで知られていました。しかし、その逆に血管の老化が、糖尿病やメタボリックシンドロームにどのような影響をおよぼしているかはよくわかっていませんでした。

今回、老化した血管が骨格筋におけるエネルギー消費を妨げることを発見しました。通常筋肉では、血流から糖(グルコース)を取り込んで、細胞内のミトコンドリアと呼ばれる小器官でエネルギーを作り出します。しかし、高カロリーの食事を投与された糖尿病病態モデルマウスでは、血管細胞が老化することで、筋肉への糖輸送や、筋肉におけるミトコンドリアの合成能が障害されていることが分かりました。
この障害によって余剰となったカロリーが内臓脂肪として蓄積し、肥満や糖尿病がさらに悪化すると考えられます。

これまで、糖尿病で合併する血管障害は、糖尿病の病態の結果と考えられていました。しかし今回の成果で、血管の細胞老化によって肥満や糖尿病がさらに進行する悪循環を引き起こしている可能性を示しました。今後、血管老化を標的とした新しい糖尿病治療の開発が期待されます。

Yokoyama M, Nakagomi A, Moriya J, Shimizu I, Nojima A, Yoshida Y, Ichimiya H, Kamimura N, Kobayashi Y, Ohta S, Fruttiger M, Lozano G, Minamino T. Inhibition of endothelial p53 improves metabolic abnormalities related to dietary obesity. Cell Rep 2014; 7: 1691-1703.
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211124714003489


眞田班員の骨髄異形成症候群におけるスプライシング異常に関する研究成果がNature CommunicationsLeukemia誌に掲載されました。
今回、眞田班員らは、高齢者に好発する造血幹細胞腫瘍である骨髄異形成症候群(MDS)の分子病態の解明につながる研究成果を報告しました。

MDSの分子病態に関する知見は長きに渡り、限られていましたが、近年の遺伝子解析研究により、最も分子病態の理解が進んだ疾患の一つです。特に、眞田らが報告をしたRNAスプライシングに関わる遺伝子群の変異(Nature 2011)は、MDSに特徴的かつ高頻度に観察されることから、MDSの本質的な理解に迫り得る知見として、非常に注目をされています。しかし、この異常が、何故、MDSに特徴的にみられ、どのようにMDS病態に関わっているかなど、未だ多くの疑問が残されています。また、この異常は、小児のMDS例には非常に稀であり、MDS発症の基盤にある造血幹細胞における加齢変化とも密接に関わっていると考えられます。

RNAスプライシングに関わる分子に変異が生じることにより、RNAスプライシングに何かしらの影響を与え、MDS発症や病態形成に関わっていると考えられていますが、裏付ける所見はほとんどありません。そこで、シンガポールおよびドイツのグループとの共同研究で、ZRSR2というスプライシング分子に変異を有する患者さん由来のRNAを網羅的にシーケンスし、ZRSR2変異の影響を詳細に解析しました。RNAスプライシングは複数のスプライシング分子複合体が多段階的に作用して行われますが、ZRSR2変異例においては、U12型のイントロン部分のスプライシングが特徴的に障害されていることがわかりました。実際のMDS患者さんの検体において、スプライシングに影響を与えていることを示す重要な発見です。(Nature Communications)

RNAスプライシングは、生物の根源的な機構(セントラルドグマ)の一つですが、スプライシングに関わる個々の分子の生体における役割の大半は不明です。そこで、MDSの中でRARSと呼ばれる特徴的な病態を呈する患者さんに特に異常が多いSF3B1というRNAスプライシング分子を遺伝学的に欠落させた遺伝子操作マウスを用いて、造血への影響を調べました。Sf3b1を完全に欠失させたマウスは胎生致死ですが、片欠失マウスは大きな異常はありません。しかし、Sf3b1を欠失させたマウスでは造血幹細胞の数が減少し、機能的にも障害されていることを、移植実験などにより明らかにしました。一方で、長期に観察した個体であっても、MDSに類似した変化は観察をされず、SF3B1の単純な機能不全のみではMDSには至らないと考えられます。(Leukemia)

1. Madan V, Kanojia D, Li J, Okamoto R, Sato-Otsubo A, Kohlmann A, Sanada M, Grossmann V, Sundaresan J, Shiraishi Y, Satoru M, Thol F, Ganser A, Yang H, Haferlach T, Ogawa S, Koeffler HP. Aberrant splicing of U12-type introns is the hallmark of ZRSR2 mutant myelodysplastic syndrome. Nature Commun. 14;6:6042, 2015
http://www.nature.com/ncomms/2015/150114/ncomms7042/full/ncomms7042.html

2. Matsunawa M*, Yamamoto R*, Sanada M*, Sato-Otsubo A, Shiozawa Y, Yoshida K, Otsu M, Shiraishi Y, Miyano S, Isono K, Koseki H, Nakauchi H, Ogawa S. Haploinsufficiency of Sf3b1 leads to compromised stem cell function but not to myelodysplasia. Leukemia. 28:1844-50, 2014 (*equal contribution)
http://www.nature.com/leu/journal/v28/n9/full/leu201473a.html