English
Top

新たな「酸化ストレス・センサー」分子MTK1の同定
-活性酸素が細胞死や炎症を誘導するメカニズムの解明-

新たな「酸化ストレス・センサー」分子MTK1の同定
-活性酸素が細胞死や炎症を誘導するメカニズムの解明-

Science Advances(6月24日オンライン版)  DOI: 10.1126/sciadv.aay9778
Moe Matsushita, Takanori Nakamura, Hisashi Moriizumi, Hiroaki Miki, and Mutsuhiro Takekawa
Stress-responsive MTK1 SAPKKK serves as a redox sensor that mediates delayed and sustained activation of SAPKs by oxidative stress.
URL: https://advances.sciencemag.org/content/6/26/eaay9778
生物は生命活動に必要なエネルギーを酸素呼吸によって得ていますが、その過程で副産物として、生体内に活性酸素種が生成されてしまうことが知られています。活性酸素の過剰産生は、細胞にダメージを与え、老化や、癌、慢性炎症性疾患(関節リウマチなど)、メタボリックシンドローム、神経変性疾患など、様々な疾病の原因となります。このため、人体には活性酸素の過剰産生によってもたらされる酸化ストレス状態を感知し、適切に応答する仕組みが備わっていると考えられていますが、その詳細なメカニズムは分かっていませんでした。

今回、東京大学医科学研究所の武川睦寛教授らの研究グループは、生体内の酸化ストレスを検知して細胞応答を導き出す、新たな仕組みを明らかにしました。本研究グループは、タンパク質リン酸化酵素であるMTK1(注1) が、過剰な活性酸素種の産生によって引き起こされる細胞内の異常な酸化−還元反応を検知する酸化ストレス・センサーとして機能しており、その情報を細胞内に伝えて、ストレス応答MAPキナーゼ経路(注2)の強力かつ持続的な活性化を誘導し、最終的にインターロイキン-6(IL-6)(注3)を代表とする炎症性サイトカインの産生や、細胞死誘導などの細胞運命決定に重要な役割を果たしていることを見出しました。

人体の酸化ストレス応答機構の一端を明らかにした本研究成果は、活性酸素やIL-6の過剰産生によってもたらされる癌、慢性炎症性疾患、メタボリックシンドロームなどの病態解明とその克服に向けて重要な手がかりを与える知見であり、今後、これらの成果を利用した新たな疾患治療薬の開発が期待されます。本研究成果は2020年6月24日(米国東部時間)、米国科学雑誌「Science Advances」に掲載されました。
図:酸化ストレス刺激によるMTK1の活性化
(上)酸化ストレス刺激によってMTK1は速やかに酸化され、その後、徐々に還元される。
(下)酸化したMTK1が還元されると、キナーゼ活性が亢進する。

(注1)  MTK1 (MAP three kinase 1):ストレス応答MAPKKK(SAPKKK)ファミリーに属する蛋白質リン酸化酵素の1つ。

(注2)ストレス応答MAPキナーゼ(SAPK)経路:SAPKKK、SAPKK、SAPKという3種類のタンパク質リン酸化酵素によって構成される細胞内情報伝達システムで、上流のSAPKKKから下流のSAPKに向けて、リン酸化反応がリレー形式で連続的に起こることによりSAPKを活性化し、ストレス環境下における細胞運命決定(細胞の生死や炎症/免疫応答など)を担っている。

(注3) インターロイキン−6(IL-6):主にマクロファージなどの免疫細胞で産生・分泌される蛋白質で、炎症を惹起するとともに、獲得免疫(抗体産生など)の誘導にも作用する。

プレスリリース