Research Project

再生医療

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)・再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業(国内医療機関からのヒト(同種)体性幹細胞原料の安定供給モデル事業
「周産期付属物由来細胞の安定供給モデルの構築」(代表者:東京大学医科学研究所付属病院・長村登紀子、研究分担者:神里彩子)

ヒト他家細胞を用いる再生医療等製品の開発や製造では、ドナーから提供された細胞原料を必要な時に、必要な量使用できる環境が重要です。この事業は、細胞原料を安定的に製薬企業等に供給できる体制整備を目的とするものです。
「周産期付属物由来細胞の安定供給モデルの構築」班では、主に間葉系細胞が豊富に含まれる臍帯、及び、幹細胞や免疫細胞が含まれる臍帯血を、厳格な品質管理のもとで安定的に供給できるよう基盤整備を行い、企業等への提供を行っています。

企業向けパンフレット

企業向けパンフレットの作成

臍帯血・臍帯、それに由来する細胞の安定的な供給の実現・維持においては、臍帯や臍帯血が「出産」という特別なイベントで得られる試料であることから、倫理的対応も必要です。当研究室では、以下の取組みを行ってきました。

1.調査研究

20代以上の女性を対象(有効回答:1000件)に、再生医療等製品の原材料に骨髄、脂肪、歯、臍帯血、胎児付属物(胎盤、臍帯、羊膜など)がなり得ることへの認知度、再生医療等製品の原材料として研究機関や企業に提供することへの考え等についてウェブ調査しました(2020年8月3日 ~ 8月5日)。その結果、再生医療等製品の原材料となり得ることへの認知度として最も高かったのが骨髄で、臍帯血は2位、胎児付属物は3位でした。もっとも、認知度は50%程度であり、決して高い水準ではないことがわかりました。「仮に出産することになった場合」という仮想設定で提供意思を尋ねたところ、「提供してもよい」との回答は臍帯血で58.8%、胎児付属物でも58.8%でした。「「胎児付属物」は、他の再生医療製品の原材料となる骨髄や脂肪、歯などに比べて特別なものと感じますか。」という問いに対しては、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」が合わせて66%に上りました。その理由としては、「お母さんと胎児をつなぐもの」、「胎児や命を支えるもの」、「胎児とともに母体内に存在したもの」など、母子とのつながりにおいて特別なものと感じている人が多くいました。本調査より、胎児付属物の研究利用・産業利用にあたって特別な配慮が必要であることが分かりました。

調査研究

2)胞衣条例の調査

徳川家宣の胞衣塚
徳川家宣の胞衣塚

胎児付属物は、古くは「胞衣」と呼ばれ、母胎内で十月過ごした胞衣を生まれた子の「分身」とみなしていました。そのため、胞衣の状態がその子の生命・健康にも影響を及ぼすと考えられ、長い間、「特別なもの」として扱われてきた歴史があります。
胞衣の取扱いに関して、今も、特有の条例を有している地域があります。現在、都道府県レベルで胞衣の取扱いに関する条例を持っているのは、北海道、東京、神奈川、愛知、三重、兵庫、京都、大阪の8都道府県です(この他、胞衣の処分手数料の規定を含む斎場条例等は多数)。もっとも、これら条例においても規制は一様でなく、また、胞衣の研究利用や再生医療等製品の原材料としての利用の許否は規定上明らかではありません。そこで、当研究室では、これら8都道府県の関係部署にインタビュー調査を行いました。その結果の詳細は拙稿をご覧ください。

  • 神里彩子「胞衣取扱条例からみる周産期付属物(胞衣)の価値」医学のあゆみ274巻7号(医歯薬出版株式会社、2020年8月)
  • 神里彩子、長村文孝、洪賢秀、長村登紀子「再生医療等製品への周産期付属物の利用と胞衣条例」(再生医療 Vol.19 No.4, 46-50, 2020年)

3)妊婦さん向けの説明同意文書、補助資料として説明動画制作

当研究室では、対象となる妊婦さんやそのご家族が事業について理解しやすいよう説明同意文書の作成支援を行い、補助資料として説明動画およびリーフレットの制作もしました。

説明文書

説明文書

妊婦さん向けリーフレット

妊婦さん向けリーフレット

妊婦さん向けの動画より

妊婦さん向けの動画より

妊婦さん向けの動画より

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)・再生医療実現拠点ネットワークプログラム
再生医療の実現化支援課題「再生医療研究とその成果の応用に関する倫理的課題の解決支援」
(研究代表者:東京大学・武藤香織、研究分担者:神里彩子)

「再生医療」は、これまで有効な治療法のなかった疾患の患者さんに対する新しい治療アプローチとして期待されています。実際、多くの基礎的研究や臨床試験が世界中で行われ、治療法開発が活発化しています。
他方で、再生医療では、主に「ヒトES細胞」、「ヒトiPS細胞」、「ヒト組織幹細胞」の3種類の幹細胞が用いられますが、これら幹細胞の特性や由来する細胞の種類によっては、特有の倫理的課題も生じます。そのため、研究を適正且つ円滑に行っていくためには、生じた、あるいは生じることが見込まれる倫理的課題に関して調査や検討を行い、解決を図ること、また、研究者等への倫理面での教育も必要です。

ヒトES細胞の樹立には、「人の生命の萌芽」であるヒト受精胚の滅失を伴うため、その実施は「ヒトES細胞の樹立に関する指針」に基づく厳格なルールに則って行われています。そして、樹立したヒトES細胞を用いる研究についても、「ヒトES細胞の使用に関する指針」が策定され、他の一般的な細胞とは異なるルールの下で研究実施が認められています。ヒトES細胞を使用した研究はすでに多く行われており、今後も必要性は変わることがないと思います。一方で、ヒトES細胞に関連する指針は、これまでしばしば改編や改正が行われており、複雑化しています。そこで、当研究室では、研究者等への教育支援ツールとして、「ヒトES細胞の使用に関する指針」を概説した動画を作成し、その後、令和4年改正に対応するための改修も行いました。

ヒトES細胞

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東京大学 医科学研究所 生命倫理研究分野