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授乳期の乳腺に免疫・微生物環境が発達する仕組みを解明

授乳期の乳腺に免疫・微生物環境が発達する仕組みを解明

Mucosal Immunology doi:10.1038/mi.2017.90
新實香奈枝1、宇佐美克紀1、藤田勇気1、阿部未来1、古川睦実1、陶山佳久1、酒井義文1、神岡真理子2、柴田納央子2、朴恩正2,3、佐藤慎太郎2,4、清野宏2、米山裕1、北澤春樹1、渡邊康一1、野地智法1,2、麻生久1
1: 東北大学大学院農学研究科食と農免疫国際教育研究センター、2: 東京大学医科学研究所、3: 三重大学医学部医学科、4: 大阪大学微生物病研究所
Development of immune and microbial environments is independently regulated in the mammary gland

東北大学大学院農学研究科 食と農免疫国際教育研究センターの新實香奈枝(博士課程後期大学院生)、宇佐美克紀(博士課程前期大学院生)、野地智法准教授、麻生久教授および、東京大学医科学研究所の清野宏教授らの研究グループは、哺育に欠かすことのできない授乳期の乳腺組織に免疫および微生物環境が発達する仕組みを明らかにしました。
外分泌器官の一つである乳腺は、唾液腺などの他の外分泌器官と比べ、その機能・形態形成機序が非常に特殊であり、性成熟後に導管が形成され、妊娠・出産を経ることで乳腺房構造が発達し、初めて機能します。また、この乳腺特有の機能や組織構造は、離乳後、速やかに失われます。乳腺の主たる機能は、母から子への栄養素や移行抗体の供給であり、これは哺乳動物において欠かすことのできない生命現象の一つです。一方で、授乳期の乳腺は、高い頻度で炎症反応を呈することが知られており(ヒトでは乳腺炎、ウシでは乳房炎と呼ばれる)、これは、哺育や牛乳生産の大きな妨げとなります。今回、研究グループは、免疫学的、微生物学および形態学的手法を駆使し、マウスの乳腺を妊娠・出産・授乳・離乳期から成る生殖サイクルを通して観察することで、免疫および微生物環境に関する、乳腺特有のダイナミックな環境変化とその制御機構の一端を明らかにしました。
乳腺に免疫システムが発達する(特に、抗体の一つのサブクラスである免疫グロブリンA (IgA)が産生される)際には、乳腺にIgAを産生する形質細胞が遊走することが必須です。今回、この細胞遊走機序が、子が乳を飲む際の刺激に依存したものであり、同時期の乳腺に認められる微生物がもたらす刺激 に依存したものではないことを突き止めました。一方で、授乳期の乳腺には、多数の細菌からなる微生物叢注2が発達していることも明らかにしました。このことは、良好な哺育ならびに乳腺での疾病制御を可能にするためには、乳腺の免疫および微生物環境の質の向上を目的としたアプローチが重要であることを示唆するものであり、また、ヒトの乳腺炎や乳牛の乳房炎を予防するための新たな着眼点をもたらすと期待されます。
本研究成果は、2017年12月20日に、国際科学雑誌Mucosal Immunologyに掲載されました。