横浜市立大学大学院医学研究科 臓器再生医学 谷口英樹特別契約教授(東京大学医科学研究所 附属幹細胞治療研究センター 再生医学分野 教授)、関根圭輔客員准教授(東京大学医科学研究所 附属幹細胞治療研究センター 再生医学分野 客員研究員、国立がん研究センター独立ユニット長)らの研究グループは、味の素株式会社、東京大学医科学研究所らと共同で、ヒトiPS細胞由来ミニ肝臓*1の製造に必要な3種類の細胞(肝臓細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞)をヒトiPS細胞から分化誘導し、ミニ肝臓を培養するための最適な分化誘導法と生物由来原料基準*2に対応した臨床向け分化誘導用サプリメント*3(StemFit® For Differentiation [開発コードAS400])の開発に成功しました。
本研究で得られた成果は、ヒトiPS細胞由来ミニ肝臓の製造における安全性・安定性・機能性の向上に貢献すると期待されます。また、本研究で開発したStemFit® For Differentiationはミニ肝臓以外にもヒトiPS細胞から肝臓細胞等の内胚葉細胞の他、血管、神経等さまざまな細胞の分化誘導にも有効であることを明らかにしました。したがって、これら細胞の製造工程における臨床向け分化誘導用サプリメントとしてさまざまな再生医療の実用化に貢献すると期待されます。
*1 ミニ肝臓:ヒトiPS細胞から分化誘導した肝内胚葉細胞と、血管内皮細胞、間葉系細胞を最適な比率で混ぜ合わせることで、in vitro培養条件下で自律的に創出した、肝臓の基となる立体的な肝芽(ミニ肝臓)のこと(Nature 499(7459): 481-4, 2013 ; Nature 546(7659):533-538, 2017)。さらに、ミニ肝臓に必要な全ての細胞材料をヒトiPS細胞から分化誘導する技術、品質が一定の小型ミニ肝臓を大量製造する技術を報告している(Cell Rep . 23(6):1620-1629, 2018 )。
*2 生物由来原料基準:再生医療等製品を含む「医薬品等」に使用されるヒトその他の生物(植物を除く)に由来する原料又は材料について、品質・有効性および安全性を確保することを目的として、製造に使用される際に講ずべき必要な措置に関する基準(平成15年厚生労働省告示第210号、平成26年厚労省告示第375号)。
*3 サプリメント:細胞培養・分化誘導には基礎培地(無機塩類、糖類、アミノ酸、ビタミンや微量元素を含む)に加え、細胞の増殖維持・分化に必要な低分子の栄養素やサイトカイン(増殖因子等)等タンパク質成分が必要です。ここでは基礎培地や分化因子(サイトカインや低分子化合物)と組み合わせて用いられる成分をサプリメントと呼んでいます。
iPS細胞由来ミニ肝臓の再生医療用製造法を開発
~再生医療応用における機能性・安定性の向上に貢献~
解説
論文情報
"Generation of human induced pluripotent stem cell-derived liver buds with chemically defined and animal origin-free media"
Scientific Reports 2020年10月21日18時付オンライン doi:10.1038/s41598-020-73908-1
Keisuke Sekine, Shimpei Ogawa, Syusaku Tsuzuki, Tatsuya Kobayashi, Kazuki Ikeda,
Noriko Nakanishi, Kenta Takeuchi, Eriko Kanai, Yugo Otake, Satoshi Okamoto, Tsuyoshi Kobayashi, Takanori Takebe, Hideki Taniguchi
Noriko Nakanishi, Kenta Takeuchi, Eriko Kanai, Yugo Otake, Satoshi Okamoto, Tsuyoshi Kobayashi, Takanori Takebe, Hideki Taniguchi