生体内におけるHIV-1感染細胞のマルチオミクス解析
-エイズ根治法の手がかり探索に道-
新生体内におけるHIV-1感染細胞のマルチオミクス解析
-エイズ根治法の手がかり探索に道-
Cell Reports(7月14日オンライン版) DOI: 10.1016/j.celrep.2020.107887
東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野の佐藤准教授らは、小動物モデルである「ヒト化マウス」(注1)を用いたHIV-1感染動物モデルを作りました。このモデル動物から取得された検体のマルチオミクス解析(注2)によって、生体内におけるHIV-1感染細胞の特徴を多角的かつ網羅的に描き出しました。
ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)(注3)は、後天性免疫不全症候群(エイズ)の原因ウイルスです。抗レトロウイルス薬多剤併用療法(注4)が確立された現在、エイズは不治の病ではなくなりました。しかし、現在においても、エイズを根治する療法はいまだ確立されていません。その原因は、感染細胞の一部でHIV-1プロウイルス(逆転写されたHIV-1のDNA)がヒトのゲノムに組み込まれ、ウイルス産生をしない「潜伏感染」の状態を保持するためであると考えられています。どのような感染細胞が潜伏感染化するかについては未解明な点が多く、感染細胞の特徴のさらなる解明が求められています。しかし、HIV-1感染細胞を特異的に検出することはきわめて困難であるため、感染者検体からHIV-1感染細胞のみを検出して分離することはきわめて困難でした。
そこで本研究では、HIV-1にGFP遺伝子を組込んだウイルス(HIV1-GFP)を用い、このウイルスを感染させたヒト化マウス感染動物モデルを作出しました。これにより、蛍光タンパク質であるGFPを指標として、生体内におけるHIV-1感染細胞の検出と、その高純度な分離が可能となりました。
本研究では、HIV-1感染ヒト化マウスモデルを用いたウイルス感染細胞のマルチオミクス解析によって、既存の手法では解析が困難な、生体内における「真の」HIV-1感染細胞の特徴を多角的に描出することに成功しました。本研究成果は、ウイルスと宿主の相互作用のさらなる解明や、エイズを含めたウイルス感染症の制圧法の開発に向けた基礎学術基盤の形成に直結する研究であると言えます。
本研究成果は2020年7 月14日、米国科学雑誌「Cell Reports」オンライン版に公開されました。
ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)(注3)は、後天性免疫不全症候群(エイズ)の原因ウイルスです。抗レトロウイルス薬多剤併用療法(注4)が確立された現在、エイズは不治の病ではなくなりました。しかし、現在においても、エイズを根治する療法はいまだ確立されていません。その原因は、感染細胞の一部でHIV-1プロウイルス(逆転写されたHIV-1のDNA)がヒトのゲノムに組み込まれ、ウイルス産生をしない「潜伏感染」の状態を保持するためであると考えられています。どのような感染細胞が潜伏感染化するかについては未解明な点が多く、感染細胞の特徴のさらなる解明が求められています。しかし、HIV-1感染細胞を特異的に検出することはきわめて困難であるため、感染者検体からHIV-1感染細胞のみを検出して分離することはきわめて困難でした。
そこで本研究では、HIV-1にGFP遺伝子を組込んだウイルス(HIV1-GFP)を用い、このウイルスを感染させたヒト化マウス感染動物モデルを作出しました。これにより、蛍光タンパク質であるGFPを指標として、生体内におけるHIV-1感染細胞の検出と、その高純度な分離が可能となりました。
本研究では、HIV-1感染ヒト化マウスモデルを用いたウイルス感染細胞のマルチオミクス解析によって、既存の手法では解析が困難な、生体内における「真の」HIV-1感染細胞の特徴を多角的に描出することに成功しました。本研究成果は、ウイルスと宿主の相互作用のさらなる解明や、エイズを含めたウイルス感染症の制圧法の開発に向けた基礎学術基盤の形成に直結する研究であると言えます。
本研究成果は2020年7 月14日、米国科学雑誌「Cell Reports」オンライン版に公開されました。

図1 本研究成果の概要図
・左上から時計回りに、(a) 本研究の解析パイプライン、(b) ddPCRの結果、(c) digital RNA-Seqの結果、 (d)1細胞RNA-Seqの結果、 (e) LM-PCRの結果を示す。
・(a)、(b)、(c) の灰色は非感染マウス由来のCD4 T細胞、赤色はHIV1-GFP感染マウス由来のウイルス非産生CD4 T細胞、緑色はHIV1-GFP感染マウス由来のウイルス産生CD4 T細胞を示す。
・(d)は、 1細胞RNA-Seq結果を基に分類した9つの異なる細胞亜集団 (cluster)を各色で示したもの。(上) : 1細胞RNA-Seq結果の次元圧縮結果 (左下) : 9つの異なる細胞亜集団 (cluster)におけるCXCL13の発現量 (右) : 9つの異なる細胞亜集団 (cluster)におけるインターフェロン誘導遺伝子の発現量。
(注1)ヒト化マウス
実験動物中央研究所(川崎市)が開発した超免疫不全マウスであるNOGマウスをレシピエントマウスとして、ヒト造血幹細胞を移植することにより、ヒト免疫細胞を再構築したマウス。
(注2)マルチオミクス解析
さまざまなオミクス[omics;すべての遺伝情報(ゲノム; genome)やすべての遺伝子発現情報(トランスクリプトーム;transcriptome)などの、網羅的な情報(-ome)を取得・解析する研究手法]情報を複合的に解析する研究手法。
(注3)ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)
エイズの原因ウイルス。レトロウイルスの一種であり、逆転写によってウイルスDNAを合成し、ヒトのゲノムに組み込む。世界三大感染症(エイズ、結核、マラリア)の原因ウイルスのひとつであり、2020年現在において、世界に約3,000万人以上の感染者がいると推定されている。
(注4)抗レトロウイルス薬多剤併用療法
1990年代後半に確立された、HIV-1感染症に対する治療法。複数の作用機序を持つウイルス複製阻害剤を併用することにより、HIV-1感染症の進展や、エイズ発症を抑える効果がある。薬の組み合わせは複数あり、HIV-1感染症に対する治療法のグローバルスタンダードとなっている。
・左上から時計回りに、(a) 本研究の解析パイプライン、(b) ddPCRの結果、(c) digital RNA-Seqの結果、 (d)1細胞RNA-Seqの結果、 (e) LM-PCRの結果を示す。
・(a)、(b)、(c) の灰色は非感染マウス由来のCD4 T細胞、赤色はHIV1-GFP感染マウス由来のウイルス非産生CD4 T細胞、緑色はHIV1-GFP感染マウス由来のウイルス産生CD4 T細胞を示す。
・(d)は、 1細胞RNA-Seq結果を基に分類した9つの異なる細胞亜集団 (cluster)を各色で示したもの。(上) : 1細胞RNA-Seq結果の次元圧縮結果 (左下) : 9つの異なる細胞亜集団 (cluster)におけるCXCL13の発現量 (右) : 9つの異なる細胞亜集団 (cluster)におけるインターフェロン誘導遺伝子の発現量。
(注1)ヒト化マウス
実験動物中央研究所(川崎市)が開発した超免疫不全マウスであるNOGマウスをレシピエントマウスとして、ヒト造血幹細胞を移植することにより、ヒト免疫細胞を再構築したマウス。
(注2)マルチオミクス解析
さまざまなオミクス[omics;すべての遺伝情報(ゲノム; genome)やすべての遺伝子発現情報(トランスクリプトーム;transcriptome)などの、網羅的な情報(-ome)を取得・解析する研究手法]情報を複合的に解析する研究手法。
(注3)ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)
エイズの原因ウイルス。レトロウイルスの一種であり、逆転写によってウイルスDNAを合成し、ヒトのゲノムに組み込む。世界三大感染症(エイズ、結核、マラリア)の原因ウイルスのひとつであり、2020年現在において、世界に約3,000万人以上の感染者がいると推定されている。
(注4)抗レトロウイルス薬多剤併用療法
1990年代後半に確立された、HIV-1感染症に対する治療法。複数の作用機序を持つウイルス複製阻害剤を併用することにより、HIV-1感染症の進展や、エイズ発症を抑える効果がある。薬の組み合わせは複数あり、HIV-1感染症に対する治療法のグローバルスタンダードとなっている。