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インフルエンザウイルスが炎症反応を引き起こすメカニズムを解明

インフルエンザウイルスが炎症反応を引き起こすメカニズムを解明

iScience(2020年6月15日オンライン版)URL: https://doi.org/10.1016/j.isci.2020.101270
森山美優、長井みなみ、丸鶴雄平、小柴琢己、川口 寧、一戸猛志
Influenza virus-induced oxidized DNA activates inflammasomes
 

インフルエンザウイルスのM2タンパク質やPB1-F2タンパク質は炎症反応に関わることが知られています。しかし、これらのウイルスタンパク質がどのように炎症反応を引き起こしているのか、その詳細なメカニズムは不明でした。

東京大学医科学研究所感染症国際研究センターウイルス学分野の一戸准教授らの研究グループは、インフルエンザウイルスを感染させたマクロファージでは、核やミトコンドリア由来のDNAが細胞質中やマクロファージ細胞外トラップと呼ばれるネット状の構造物中に多く検出できることを見出しました。これらのDNAには酸化DNAが含まれており、インフルエンザウイルスの複製に必須のM2タンパク質(注1)が酸化DNAの放出を引き起こしていることを明らかにしました。

またミトコンドリア内に局在するPB1-F2タンパク質(注2)は、ウイルスRNA存在下で酸化DNAの放出を誘導しました。核やミトコンドリア由来と考えられるこれらの酸化DNAは、NLRP3(注3)やAIM2インフラマソーム(注4)依存的なIL-1β(注5)の産生を誘導しており、これがウイルス感染局所の炎症応答に関わっていることが示唆されました。M2タンパク質のようなイオンチャネル活性を持つウイルスタンパク質は新型コロナウイルスを含む他のウイルスにも認められることから、本研究成果はインフルエンザウイルスだけでなく、新型コロナウイルスなどの強い炎症反応を引き起こすウイルスの病原性発現機構の解明にも繋がると期待されます。

本研究は日本学術振興会特別研究員事業などの一環として、また先進医薬研究振興財団および東京生化学研究会の助成を受けて得られたものです。研究成果は2020年6月15日の米国の科学雑誌「iScience」のオンライン版に公開されました。

(※1)M2タンパク質
プロトンチャネルとして機能することによりインフルエンザウイルスの増殖に必須のウイルスタンパク質である一方、ウイルスが細胞に感染したときの炎症反応を引き起こす原因となる。研究グループはこれまでにインフルエンザウイルスのM2タンパク質がNLRP3 インフラマソーム依存的なIL-1βの分泌(炎症反応)に必要であることを示している。
【参考】2013年10月14日プレスリリース「インフルエンザウイルス感染によって起こる
炎症反応のメカニズムを解明」
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/ichinohe-lab/131016.pdf

(※2)PB1-F2タンパク質
インフルエンザウイルスがコードする90アミノ酸程度の短いペプチド。ミトコンドリア内に入り、ミトコンドリアを断片化させることにより、ウイルスに対する自然免疫応答を抑制している一方、ダメージを受けたミトコンドリアから酸化DNAを放出させている。

(※3)NLRP3インフラマソーム
NLRP3は、ウイルスや細菌、環境中の刺激物(シリカ、アスベストなど)によって活性化する細胞内の自然免疫受容体。活性化すると細胞内でNLRP3インフラマソームと呼ばれる巨大なタンパク質複合体を形成して、IL-1βの分泌を促進させる。

(※4)AIM2インフラマソーム
AIM2は、ウイルス由来の二本鎖DNAによって活性化する細胞内の自然免疫受容体。活性化すると細胞内でAIM2インフラマソームと呼ばれる巨大なタンパク質複合体を形成して、IL-1βの分泌を促進させる。

(※5)IL-1β
ウイルス感染局所の炎症反応に関わるサイトカイン。IL-1βは好中球に作用して、好中球細胞外トラップ(NETs: neutrophil extracellular traps)を誘導することも知られている。このNETsは重症COVID-19患者でしばしばみられる血栓の原因のひとつとして考えられている。


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