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p16Ink4a陽性肝細胞は肝線維化を促進する ――肝線維化を促進する細胞の同定――

発表のポイント
  • p16Ink4a陽性肝細胞が肝星細胞を活性化し、肝線維化を促進することを明らかにしました。
  • これまで肝線維化を促進する肝細胞についてはよくわかっていませんでした。今回一細胞scRNA-seq解析によりp16Ink4a陽性肝細胞が肝線維化に重要であることを明らかにしました。
  • p16Ink4a陽性肝細胞は、肝線維化の予防や治療の新たな標的となる可能性があります。
    シングルセル解析による肝線維化を促進する細胞の同定

 概要

東京大学医科学研究所癌防御シグナル分野の西川晃司特任研究員(研究当時)、中西真教授、生成AI活用加齢医学社会連携研究部門の王德瑋特任准教授らの研究グループは、GMOインターネットグループとの共同研究により、遺伝子改変マウスを用いた解析により、四塩化炭素投与による肝損傷によって誘導されるp16Ink4a(注1)陽性肝細胞が肝星細胞(注2)を活性化し、肝線維化を促進することを明らかにしました。scRNA-seq解析(注3)により、p16Ink4a陽性肝細胞が肝星細胞を活性化する経路として、LIFR(注4)の活性化が関与していることを同定しました。

ヒトサンプルにおいても、正常肝と比較して肝硬変患者ではp16Ink4a陽性肝細胞の増加が認められました。さらに、ヒトおよびマウスのscRNA-seq解析データを生成AI技術により統合解析することで、肝硬変患者の肝細胞集団の中に、マウスのp16Ink4a陽性肝細胞と類似した特徴を持つ肝細胞集団が存在することを明らかにしました。

本研究の成果により、p16Ink4a陽性肝細胞が肝線維化を促進する特徴を持つことが示されました。ヒト肝硬変組織においても増加するp16Ink4a陽性肝細胞は、肝線維化の予防や治療の新たな標的となる可能性があります。

本研究の成果は、2026年1月26日付で、国際科学雑誌「Advanced Science」に掲載されました。


 発表内容       

肝臓は炎症の持続により組織破壊と再生を繰り返すことで肝線維化が進行し、最終的には肝硬変(注5)に至ります。肝硬変では肝機能の低下のみならず、門脈圧亢進症(注6)や肝細胞がんを合併し、予後が著しく低下します。そのため、肝線維化のメカニズムの解明は非常に重要です。

CreERT2-lox(注7)システムを用いてタモキシフェン投与によりp16Ink4a陽性細胞を標識できるp16-CreERT2-tdTomatoマウスに対し、四塩化炭素の長期投与を行い、肝線維化とp16Ink4a陽性肝細胞との関係を解析しました。その結果、両者の間に正の相関が認められました。さらにscRNA-seq解析を行ったところ、p16Ink4a陽性肝細胞は中心静脈周囲を中心に増加しており、DNA損傷や肝代謝機能低下といった特徴を有することが明らかになりました(図1)。
図1:四塩化炭素投与によって誘導されるp16Ink4a肝細胞の特徴
加えて、肝細胞および肝星細胞のscRNA-seqデータを用いて細胞間コミュニケーション解析を行った結果、p16Ink4a高発現肝細胞から分泌されるIL-6ファミリーサイトカインであるcardiotrophin-1(CTF1)やleukemia inhibitory factor(LIF)を介して、肝星細胞の活性化に関与している可能性が示唆されました(図2)。In vitro実験においても、LIFR阻害剤により肝星細胞の活性化が抑制されたことから、p16Ink4a高発現肝細胞が肝星細胞上のLIFRを活性化し、その活性化を促進していることが示されました。
図2:肝細胞と肝星細胞の細胞間コミュニケーション
次に、CreERT2-loxシステムおよびDreERT2-roxシステム(注8)を組み合わせ、肝細胞特異的にp16Ink4a陽性細胞を除去したところ、四塩化炭素の長期投与によって誘導される肝線維化が、p16Ink4a陽性肝細胞除去群において改善していることが明らかになりました(図3)。
図3:非除去群と除去群の線維化の比較(シリウスレッド染色)
最後に、ヒトの正常肝組織および線維化が進行した肝組織を用いて、p16INK4A免疫染色およびscRNA-seq解析を行いました。その結果、線維化が進行した肝組織では、正常肝組織と比較してp16Ink4a陽性肝細胞が増加していることが認められました。さらに、マウスのscRNA-seq解析から中心静脈周囲におけるp16Ink4a高発現肝細胞集団に特徴的な遺伝子発現リストを作成し、ヒト肝細胞との類似性を検討しました。その結果、マウスのp16Ink4a高発現肝細胞集団は、肝硬変患者の肝細胞と高い類似性を示し、特にDNA損傷の強い肝細胞集団において最も高い類似性が認められました。これらの結果から、肝硬変肝細胞とマウスp16Ink4a高発現肝細胞は、DNA損傷や肝機能低下といった共通した特徴を有しており、ヒトにおいても肝細胞におけるp16INK4A発現が肝線維化の病態進行に重要な役割を果たしている可能性が示唆されました。
図4:正常肝細胞と肝硬変肝細胞のscRMA-seqによる比較
なお、本研究は、東京大学における動物実験審査委員会の承認(承認番号:A2025IMS144)のもと、東京大学が定めた実験動物の取り扱いに関する指針に則り実施されました。


 発表者・研究者等情報       

東京大学医科学研究所 
 癌・細胞増殖部門 癌防御シグナル分野
  中西 真 教授
  西川 晃司 特任研究員(研究当時)
   兼:東京都立駒込病院 肝臓内科
 
 生成AI活用加齢医学社会連携研究部門
  王 德瑋 特任准教授


 論文情報       

雑誌名:Advanced Science
題 名:p16Ink4a-Positive Hepatocytes Drive Liver Fibrosis Through Activation of LIFR Family Pathway
著者名:Koji Nishikawa, Teh-Wei Wang#, Satoshi Kawakami, Shota Tanimoto, Kiyoshi Yamaguchi, Taketomo Kido, Masamichi Kimura, Tsunekazu Hishima, Yuki T. Okamura, Satotaka Omori, Takumi Iritani, Toshikaze Chiba, Takehiro Jimbo, Michio Katano, Kansuporn Kamataki, Ryoichi Yokoyama, Eigo Shimizu, Kiminori Kimura, Satoshi Yamzaki, Seiya Imoto, Yoichi Furukawa, Atsushi Miyajima, Yoshikazu Johmura Makoto Nakanishi#
(#Corresponding author)
DOI: 10.1002/advs.202510562
URL: https://doi.org/10.1002/advs.202510562


 研究助成       

本研究は、中西真教授に対する日本医療研究開発機構(AMED)「ムーンショット型研究開発事業(炎症誘発細胞除去による100歳を目指した健康寿命延伸医療の実現)」「AMED-CREST(神経細胞におけるミスフォールドタンパク質分解機構と神経変性疾患における役割の解明)」「革新的がん医療実用化研究事業(老化細胞除去による高齢者発がん抑制療法の開発)」「次世代がん医療創生研究事業(ミスフォールドタンパク質認識ドメインを利用した新たながん治療戦略の確立)」日本学術振興会新学術領域研究「多様かつ堅牢な細胞形質を支える非ゲノム情報複製機構(DNAメチル化によるゲノム情報安定化機構の解明)」「基盤研究A(細胞老化の統合的理解による発がん制御機構の解明)」の支援により実施されました。


 用語解説

(注1)p16Ink4a
サイクリン依存性キナーゼ4(Cdk4)、Cdk6特異的な阻害タンパク質。老化細胞で比較的選択的に発現が上昇する。

(注2)肝星細胞
肝臓の線維化に関与する細胞。静止期にはビタミンAを貯蔵しているが、炎症などの刺激により活性化すると細胞外マトリックスを産生・分泌し、線維化を促進する。

(注3)scRNA-seq解析
単一細胞レベルで遺伝子発現を網羅的に解析するRNAシークエンス解析。

(注4)LIFR
Leukemia inhibitory factor receptor (白血病阻害因子受容体)。IL-6ファミリーに属するサイトカインの受容体の一つで、細胞の増殖や分化、活性化などを制御するシグナル伝達に関与する。

(注5)肝硬変
肝臓の不可逆的な線維化が進行し、門脈圧亢進症や肝機能低下を来した状態。

(注6)門脈圧亢進症
肝臓に流入する血管の1つである門脈内の圧が異常に上昇している状態。肝硬変に合併することが多い。

(注7)CreERT2-loxシステム
変異型エストロゲン受容体(ERT2)と融合したCre組換え酵素がlox配列を認識し、タモキシフェン投与により任意の時期で標的遺伝子を細胞や組織特異的に欠失・改変できる遺伝子操作技術。

(注8)DreERT2-roxシステム
変異型エストロゲン受容体(ERT2)と融合したDre組換え酵素がrox配列を認識し、タモキシフェン投与により任意の時期で標的遺伝子を細胞や組織特異的に改変できる遺伝子操作技術。


 問合せ先

<研究内容について>
東京大学医科学研究所 癌・細胞増殖部門 癌防御シグナル分野
教授 中西 真(なかにし まこと)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/lab/cancerbiology/section04.html

<機関窓口>
東京大学医科学研究所 プロジェクトコーディネーター室(広報)

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