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2026年 岩間厚志所長年頭挨拶

医科学研究所の皆様、新年おめでとうございます。所長の岩間です。昨年は所長就任一年目ということで、大変お世話になりました。いろいろご迷惑をおかけしたこともあるのではないかと思います。今年は二年目に入りますが、引き続きよろしくお願いいたします。さて、皆様におかれましては、比較的長いお正月休みの後、そろそろ日常のペースが戻りつつあるころではないかと思います。本年が皆様にとって良い一年となることを、心よりお祈り申し上げます。
 
それでは例年通り、昨年の所員の異動と医科研の活動状況を振り返るとともに、いくつかの新しい試みについてご紹介したいと思います。
 
まず、人事についてです。長年医科研の感染遺伝学分野においてご貢献を賜った三宅健介先生が、昨年度をもって退職されました。現在は、千葉大学でさらなる研究に取り組んでいらっしゃいます。また、四柳宏先生は、国立健康危機管理機構の理事に就任されました。医科研においてはこの1年間、特任教授としてご活動いただいています。また、古賀道子先生は、国際高等研究所新世代感染症センター(UTOPIA)の教授に就任されましたが、医科研においても特任教授として、引き続き診療に従事していらっしゃいます。反町典子先生は大学院理学系研究科の教授に就任されました。反町先生にも、引き続き国際ワクチンデザインセンターの兼務教授としてご尽力いただいています。
 
続いて、新任の准教授および特任准教授をご紹介いたします。まず、脳腫瘍外科の伊藤博崇先生が、准教授に昇任されました。また、病理診断科には森田茂樹先生が、准教授として新たに赴任されました。さらに、アジア感染症研究拠点に山本瑞生先生、ワクチン科学分野に仲山美沙子先生、医療データ情報学分野に山本章人先生が特任准教授として新たに赴任され、それぞれご活躍なさっています。
 
教授、准教授の異動につきましては、例年通り多くの先生方が異動され、新たな道を進んでいらっしゃいます。田中耕一先生、大田泰徳先生、Kavian-Tessler, Niloufar先生、小檜山康司先生、後藤覚先生、福井竜太郎先生、愛甲丞先生、小林俊寛先生、藤本康介先生、朴聖俊先生がご異動となっています。田中先生は、ノーベル賞受賞者でいらっしゃいますが、長年特任教授として医科研の活動にご貢献いただきました。昨年度をもって特任教授を退任されました。小林先生は生理学研究所の教授に、藤本先生は大阪大学の微生物病研究所の教授にご昇進されました。 朴先生は、かずさDNA研究所AIゲノム情報学研究室の室長として、ご活躍なさっています。
 
次に、受賞についてです。昨年も多くの方が受賞されました。元診療放射線技師長の佐竹芳朗さんと井下富夫さん、元事務部長である髙橋良了さんの三名が、それぞれ瑞宝双光章を叙勲されました。藤本康介先生は日本医療研究開発機構(AMED)理事長賞、佐藤佳先生は日本微生物学連盟「野本賞」、伊東潤平先生はOxford Journals - Japanese Society for Bioinformatics Prize、藤堂具紀先生は長與又郎賞、柴田龍弘先生はJCA-永山賞および安田医学賞、植松智先生は日本免疫学会ヒト免疫研究賞および小島三郎記念文化賞を、それぞれ受賞されています。心よりお祝い申し上げます。医科研奨励賞は吉見一人先生が受賞されています。吉見先生はご存知のように、CRISPR-Cas3によるゲノム編集技術を開発し、医療分野への応用や技術普及において成果を上げていらっしゃいます。誠におめでとうございます。引き続きご活躍を期待しております。
 
続きまして、医科研において核となる活動である国際共同利用・共同研究拠点についてお話いたします。医科研には、先端医療研究開発、ゲノム・がん・疾患システム、感染症・免疫という三つのコア研究領域を中心としたさまざまなセンターがあり、これらが連携して本拠点を運営しています。2019年に国際共同研究拠点に認定されて以降、国際共同研究の活動がますます盛んになっています。昨年度は医科研が支援する共同研究が百件を超え、活動はさらに活発化しています。その結果として発表される論文数も堅調です。この活動には数多くの教職員の皆様にご尽力いただいており、川口寧副所長をはじめ関係各位に、心より感謝申し上げます。今年度も多数の申請があると伺っておりますので、本活動が引き続き活発に行われることを大変喜ばしく存じます。
 
次に、医科研が我が国の生命科学研究のさまざまな分野で行っている支援活動についてご説明します。まず、文部科学省の学術研究支援基盤形成事業では、武川睦寛先生が生命科学連携推進協議会の代表を務め、四つのコアとなるプラットフォームの活動を率いていらっしゃいます。この四つのプラットフォームのうち、コホート・生体試料支援プラットフォームでは醍醐弥太郎先生が、先端モデル動物支援プラットフォームでは武川先生が代表を務められており、医科研が中心となって活動していることがお分かりいただけると思います。さらに、学術研究基盤支援室では、武川先生をはじめ井上純一郎先生、その他多くの先生方のご協力のもと、運営が行われています。支援数は極めて多く、成果として得られる論文数も多数に上っています。関係各位に厚く御礼申し上げますとともに、引き続き本事業の運営にご協力賜りますようお願い申し上げます。
 
次に、バイオバンク・ジャパンについてです。代表の松田浩一先生をはじめ、多くの教職員の方々が参画され、日本のゲノムを中心とした支援事業が行われています。これまでに、膨大な数のサンプルが蓄積されています。その中でも、DNAや血清については、アカデミアに限らず企業にも供給されています。その数は年々増加し、現在までに数十万件の検体が提供されています。関連する先生方のご尽力に深く感謝申し上げます。引き続き、皆様のご協力をお願い申し上げます。
 
続いて、橋渡し研究プログラムです。これは、基礎研究段階から臨床試験段階までを一貫して支援する研究事業です。医科研および医科研病院は、医学部付属病院とともに東京大学拠点として活動しており、その運営は長村文孝先生を中心に行われています。シーズAからCまでさまざまな支援段階があり、非臨床試験から第I相、第II相試験、さらには第III相試験に入るものまで、多様な段階のシーズを支援しています。これらの臨床試験に用いられるウイルスや細胞の多くは医科研の施設を用いて製造されています。そこで製造施設について少しご紹介します。医科研には、ベクターユニット、細胞リソースセンター、セルプロセッシング施設など、複数の製造施設があり、そこでベクターウイルスや細胞が製造され、臨床試験に用いられています。このことから、医科研が基礎研究から臨床試験に至るさまざまな段階で支援を行っていることが、ご理解いただけるのではないかと思います。また、医科研には遺伝子治療・再生医療コンソーシアムが設立されており、医科研のさまざまな分野の先生方が協力して、遺伝子治療や再生医療の推進にご尽力されています。後ほどご紹介しますが、このコンソーシアムからは財団設立の動きもあり、活動は徐々に活発になってきています。
 
さらに、附属病院においても、研究・診療をはじめ幅広い活動が行われています。研究面では、藤堂先生を中心とする脳腫瘍に対するウイルス療法が、さまざまな形で推進されています。また、薬剤部主導による第III相比較試験なども行われています。消化器内科では、トイレ内で便潜血を検出可能な機器の開発なども行われています。また、臍帯血・臍帯バンクによる研究用・臨床用の臍帯血の提供も盛んに行われています。一方、診療に関しては、今日の日本の医療は極めて厳しい状況にあります。特に国立大学病院については、財務状況が厳しさを増していることが、日々報道等で取り上げられています。医科研も例外ではなく、現在、病院の執行部を中心にさまざまな検討が行われています。病院の執行部ならびにスタッフの皆様のご苦労に対し、心より感謝申し上げます。今年も、引き続きご尽力賜りますようお願い申し上げます。ここ数年の入院患者数および外来患者数の推移が示すように、病院経営は概ね安定しています。一方で、医療を取り巻く状況の変化と改革の動きを踏まえ、病院の執行部を中心に今後も新しい試みが実行されていくものと考えております。
 
続いて、UTOPIAへの貢献についてご説明します。国や社会からの注目度が非常に高いこの活動に、多くの医科研の先生方が参加されています。まことに誇らしいことであり、皆様には引き続きご尽力賜りますようお願い申し上げます。
 
ここで、論文数と外部資金の推移についてご紹介いたします。論文数および外部資金については、年度ごとの波はあるものの、論文数、外部資金の獲得はともに堅調に推移しています。特に外部資金については、AMED等を含めた受託研究の額が最も高い割合を占めています。来年度は科学研究費も増額される予定ですので、皆様にはぜひ、外部資金の獲得に向けて新たな申請等の準備を積極的に進めていただけますようお願い申し上げます。
 
それでは、医科研の機能強化に向けた試みをご紹介いたします。まず共同利用施設ですが、共焦点レーザースキャン顕微鏡やスペクトル型セルソーターシステムなど、新しい機器が導入されています。これらの新しい機器以外にも、整備したい機器・設備が数多くあり、執行部としては、必要なものは導入する方向で検討しておりますが、購入は財務状況が許す範囲で進めてまいります。何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。研究環境の強化については、先ほど一部ご紹介しましたが、新しいGMPベクター製造施設がすでに稼働しています。医科研で臨床用のベクターやウイルスを製造する動きが、まさに活発化しつつあります。
 
また、西側の再開発として、サービスアパートメントができる予定です。これは主に外国人をターゲットとした短期・中長期の滞在型ホテル&レジデンスであり、すでに着工しています。なお、そのアパートメントの隣接地には、医科研病院との医療連携サービスを導入したハイグレードな分譲住宅の建設が予定されています。どのような医療連携が可能かについては、病院の先生方やスタッフの皆様と相談しつつ、検討を進めてまいります。関係各所の皆様におかれましては、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。また、旧看護師宿舎はすでに取り壊しとなりましたが、宿舎用地の一部を本事業に供出しており、医科研はその代わりとして一定の利益を受け取ることになっています。その利益をどのように活用するかは、今後、真剣に検討していく必要があります。単に「こういったものができる」にとどまらず、この西側開発を契機として得られる利益を活用し、医科研として新たな試みにつなげていければと考えております。この新しい試みについては、議論も含め、皆様のご協力をぜひともお願い申し上げます。
 
続いて、社会連携の強化についてご説明します。2027年は東京大学創立150周年、そして医科研は135周年にあたります。東京大学では、さまざまな150周年記念事業を計画しており、いくつかの取り組みはすでに進行中です。医科研でも、昨年、大気海洋研と合同で奄美シンポジウムを開催いたしました。奄美には医科研の奄美医科学研究施設(旧称・奄美病害動物研究施設)が1967年から開設されており、感染症研究を主としたさまざまな研究が行われています。実は数年前から、大気海洋研がこの奄美の施設の一部を利用し、「亜熱帯・Kuroshio研究プロジェクト」という研究拠点プロジェクトを進めています。医科研が取り組む人間の健康に関する研究と、大気海洋研が進める地球規模の研究が奄美の地で融合し、いわゆるプラネタリーヘルス研究という大きな枠組みとして、研究活動が活発に行われています。奄美まではいささか距離がありますが、東京大学の最南端の研究拠点でこのような取り組みが進んでいることを、皆様にもご認識いただき、ご興味をお持ちいただければ幸いです。
 
なお、先ほど少しご紹介しましたが、遺伝子細胞治療の社会実装がいよいよ現実的になってまいりました。すでに藤堂先生のウイルス療法(oncolytic virus therapy)は保険適用となり、医科研でも治療に用いられていますが、それ以外にもさまざまなシーズが社会実装の実現に近づいています。そして、昨年より医科研の教授会で議論を重ねてまいりました医科研財団(仮称)が、いよいよ設立される運びとなりました。詳細は現在準備中ですが、この財団では、遺伝子細胞治療、あるいは再生治療の社会実装を目指し、橋渡しとなる活動を行う予定です。また医科研では、東京大学のニューヨークオフィスで、IMSUTニューヨークセミナーを2023年から開催しています。毎年、最新の研究成果をニューヨークの地で発信し、海外の演者との交流に加え、主にニューヨークにいらっしゃる日本人の方々(特にOBの方々を含む)との交流も行っています。機会がありましたら、こちらのセミナーについてもぜひご参加いただければ幸いです。

それでは、今年度の執行体制をご紹介いたします。まずは、執行部の運営にご尽力いただいている部門長の皆様です。それぞれ素晴らしい実績をお持ちの先生方であり、大変心強く思っています。また、附属病院の朴成和病院長をはじめとする病院執行部の皆様には、私どもの執行部と連携のもと、病院運営にご尽力いただいています。繰り返しになりますが、日本の医療はいま厳しい状況にあり、病院運営には関係各所の皆様のお力が必要です。本年もよろしくお願い申し上げます。続いて、事務部の皆様をご紹介いたします。事務部では須藤桂太郎事務部長をはじめ、圷陽子管理課長、大浦輝一研究支援課長、尾崎正明病院課長に、それぞれご協力いただいています。運営会議の執行部は、武川副所長、川口副所長、真下知士副所長、朴病院長、須藤事務部長、そして私・岩間で構成しています。多くの皆様のご協力とご支援に、深く感謝申し上げます。
 
医科研の活動のご紹介は以上になりますが、最後に国際卓越研究大学の認定についてご報告いたします。昨年来、東京大学が最も大きな課題として多くの時間を費やして取り組んできたのが、国際卓越研究大学の認定に向けた準備でした。すでに報道でご存知のとおり、東京大学は残念ながら審査継続という結果となり、現時点では採択には至りませんでした。今回は東京科学大学が採択され、京都大学も認定候補となりましたが、計画案等の磨き上げという課題が示されています。東京大学については、認定可否の判断にあたり確認を要する点があるとされ、最長で一年間、審査が継続されることになりました。ただ、いくつかの課題が示されており、課題は明確になっています。現在は本部執行部を中心に、当該課題に関する計画の改定作業を行っているところです。国際卓越研究大学の枠組みの下では、さまざまな改革が進められる予定です。時間の都合上、すべてをご紹介するわけにはいきませんが、東京大学は世界のトップ10入りを掲げ、研究力強化に向けた改革を進めることを提案しています。研究力強化はもちろん、人事評価制度等の変革も掲げています。単に研究力の強化だけではなく、私たちが長年親しんできたさまざまな制度の改革が進んでいくことになります。そうした意味では、卓越を目指す大学に限らず、すべての国立大学が、いま変革期にあると言ってよいのではないかと思います。このような変革の流れの中で、医科研が医科研らしさを保ちながら、どのように改革を進めていくのかは、喫緊の課題となっています。この点については、所員の皆様と相談しながら、医科研らしい改革の方向性を見いだしていければと考えております。どうぞ引き続き、この点についても、皆様のご協力を賜りますようお願い申し上げます。
 
以上、拙い挨拶となりましたが、私たちが医科研で行っている活動状況、そして新しい流れの概要をご紹介できたのではないかと思います。また、これは毎年のことではありますが、昨年も多くの方のご異動がありました。これは大学の健全な姿だと考えております。医科研から新たなステージに向かわれた方、医科研に新しくお入りになった方、ともにそれぞれの場所でのご活躍をお祈り申し上げます。皆様、これからの一年間に向けて、また新しいスタートを切ってください。私も就任二年目となります。少し落ち着いたところで、医科研がより良くなるよう、力を尽くしていく所存です。皆様にとって良い一年となりますことを、あらためてお祈り申し上げ、私のご挨拶とさせていただきます。
 
ご静聴ありがとうございました。
 
東京大学医科学研究所 所長
岩間 厚志