2021年 山梨裕司所長年頭挨拶
皆様、新年、明けましておめでとうございます。現下の状況ですので、新春の寿ぎを申し上げて良いかどうか悩みましたが、どの年であれ、良いこととそうでないこと、様々な禍福を経た上での新年ですので、やはり、謹んで新春のお慶びを申し上げる次第です。また、本日は御多用の中、私の年頭のご挨拶に時間をお取り頂き、誠に有難うございます。
さて、本年は、皆様に様々な忍耐をお願いした新型コロナウイルス感染症COVID-19のお話をしなければなりません。昨年(2020年)の2月に、医科研病院における受け入れの可能性について皆様にお知らせしてから早くも11ヶ月が経ちました。この、いわゆる第一波からの迅速な対応につきましては、医科研病院による地域医療、ひいては、その治療法・予防法開発を含めた我が国全体への貢献として、東條病院長、吉井看護部長、松井事務部長、並びに四柳副病院長をはじめとするCOVID-19対策チームの皆様に深く感謝申し上げます。また、その対策に対する今年度の業務改革総長賞特別賞の受賞につきまして、医科研病院の皆様に心よりお祝い申し上げます。
申すまでもなく、病院以外の皆様にも、レベル3からレベル0.5までの本学活動制限にご協力頂いておりますことにも、深く御礼申し上げます。特に、昨年の4月6日から開始された緊急事態宣言期間では、皆様の極めて重要な研究や業務の多くを停止して頂くご苦労をおかけしました。また反対に、新型コロナウイルス対策に直結する研究に携わる皆様や病院の診療業務に関わる皆様には、感染対策に留意しての業務遂行のご苦労をおかけいたしました。この点、皆様のご協力に重ねて御礼申し上げる次第です。そのおかげをもちまして所内での感染拡大事例はなく、また、病院業務やコロナ研究だけでなく医科研全体の研究・教育機能が大きく落ち込まず、着実に強化されていることに深謝申し上げます。
なお、東京都全体の数値よりは低い割合ですが、本学でも感染事例が報告されていますので、引き続き、感染拡大防止、特にマスク着用、対人距離、所謂ソーシャル・ディスタンスの確保と換気、手指洗浄、飲食を伴う会合の回避を心よりお願い申し上げます。また、残念ながら再度、レベル1以上の活動制限の可能性が出てまいりましたので、落ち着いた御対応の備えを重ねてお願い致します。
以上、COVID-19対応についてお話をいたしました。次に、新年に相応しい明るい話題ですが、医科研の未来を支える人事につきまして、お話し致します。まず、教授人事につきましては、ヒトゲノム解析センターの渋谷先生を昇任の形で新任教授としてお迎えすることができました。申すまでもなく、AIを用いた医科学研究は医科研の中核課題ですので、大変心強く存じます。その上で、この元旦に、ゲノム情報の発現を担うRNA研究の第一人者である稲田先生を東北大学からお迎えし、医科研のゲノム医科学のさらなる発展にもご貢献頂けることを確信しております。
また、附属病院では外科担当の志田先生を国立がんセンターからお迎えし、昨年申し上げました医学部附属病院との強化プロジェクトとして学内兼務の形でお迎えした泌尿器科の久米先生とともに、既に導入済みの医療ロボット、ダヴィンチ(da Vinc)によるロボット支援手術を含む外科機能の強化を進めて頂いております。
この点では、外科の准教授として愛甲先生をお迎えし、また、外科機能に必須の病理診断科に大田先生を准教授としてお迎えしていることからも、外科機能強化の重要性をご理解頂けると思います。さらに、アレルギー免疫科の機能強化のために山本先生をお迎えしています。
また、遺伝子・細胞治療とスパコン・AI医科学を推進するために内田先生、朴先生を新たな准教授としてお迎えし、さらに、ウイルス制御研究の強化のために、加藤先生をお迎えいたしました。
加えて、特任准教授として、情報解析研究や感染症研究を専門とする張先生、合田先生、福井先生をお迎えし、また、世界トップレベルの基礎医科学研究者が来月、新任教授として着任くださる予定ですので、医科研の基礎・臨床の総合力は着実に強化されているとご理解頂ければ幸いです。
一方で、医科研としては大きな痛手ではありますが、分子シグナル研究と情報解析研究の第一人者である井上先生と宮野先生が定年にて退職されました。井上先生は全学の特命教授として、ご自身が見出したCOVID-19の治療薬候補であるフサン、ナファモスタットを含む研究を進めておられ、また、宮野先生は東京医科歯科大学で特任教授として、新たな情報解析研究を進めておいでです。この点、医科研の中核事業である感染症研究と情報解析研究につきまして、これからも、大所高所からのご指導を頂けるものと考えております。
また、多くの准教授の先生方や特任教員の先生方も、昇任や新たな研究室の始動のために異動されておいでです。これも、医科研にとっては痛手ですが、我が国の研究力向上に貢献していることの証左でもあります。皆様のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
次に、研究活動の指標の一つである英文査読付論文数の推移ですが、直近の7年間では安定して500報前後となっています。また、インパクトファクター10 以上の雑誌に掲載された論文の割合も15%前後で推移しています。2019年度は少し減少していますが、2017年度よりは上向きですので、新たにお迎えした先生方を含めた医科研の研究力向上に引き続き、注力いたします。
また、もう一つの指標である外部資金の推移につきましては、この5年間、獲得件数も金額も安定して増加している状況です。この点、皆様のご活躍に深く感謝申し上げます。この勢いを削がぬよう、引き続き、よろしくお願い申し上げます。
研究成果を讃える受賞実績につきましては、山﨑先生が日本医療開発機構理事長賞を、佐藤先生が文部科学大臣表彰若手科学者賞を、一戸先生が腸内細菌学会研究奨励賞をそれぞれ受賞されておいでです。また、先ほど申し上げました医科研病院の業務改革総長賞特別賞に加え、井元先生が参加されている「新型コロナウイルス対策連絡会議」が日本野球機構とJリーグから特別賞を受賞されています。先生方の業績に敬意を表すると共に、心よりお祝い申し上げる次第です。
以上、昨年と同じく、教員人事と論文発表、研究費、受賞についてお話し致しましたが、やはり医科研は、創立者である北里柴三郎先生の三つの理念、「実学」、「包括的研究」、「予防」の重視、をしっかりと受け継ぎ、医科研が誇る、多様な人材と学際的な研究、そして、独自のスパコンとプロジェクト型病院を擁する強みを生かし、膨大で複雑な情報とAIを活用する自由な基礎・橋渡し・臨床研究をバランス良く進めることで、これからも未来医療を実現する医科学研究を進めていかねばなりません。この点、皆様のご活躍とご協力を引き続き、お願い申し上げます。
次に、我が国と世界の医科学を支える国際共同利用・共同研究拠点としての医科学研究所と、その機能強化プロジェクトについてお話し致します。
ご存知の通り、東京大学医科学研究所は、2018年11月に「基礎・応用医科学の推進と先端医療の実現を目指した医科学国際共同研究拠点」として、生命科学系では唯一の国際共同利用・共同研究拠点に認定されています。この事業では、医科研が3つのコアとなる共同研究領域を通じて、国外の大学・研究機関と国内の大学・研究機関をつなぐことで、基礎研究では知の地平の拡張を、応用研究では医療イノベーションの創出を加速するものです。
事実、数多くの海外研究機関と国内研究機関の共同研究を医科研が拠点として支援し、その数も、昨年度は一昨年度よりも50%以上増加しています。この点、皆様のご尽力に改めて感謝申し上げます。
さらに、この拠点事業を支える機能強化のために、昨年度は、井元先生が牽引する「人知とAIの融合による新次元ゲノム医療創出の基盤研究」事業が概算要求事業として開始されました。加えて、石井先生が牽引する「ポストコロナ時代を見据えた新次元ワクチン研究基盤構築事業」も概算要求事業として予算化され、この4月から始動いたします。このように関係各位のご尽力にて、極めて順調に機能強化が進んでおりますので、来年度も、新たな機能強化プロジェクトを実現すべく、準備を進めて参ります。引き続き、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。
申すまでもなく、国際共同利用・共同研究拠点としての医科研にとっても、附属病院の機能強化は必須です。この点では、昨年、東條先生に具体的な実施項目を挙げて頂きましたが、既に、この1年で、「画像診断の時間外対応」が実施され、また、先ほども申し上げました「志田先生と久米先生によるフロンティア外科学分野と泌尿器科の創設による手術の開始」、さらには、「入院リハビリ体制の強化」が実現され、外科を中心とする医科研病院の機能強化が着実に進んでおります。これからも、外科分野の強化を進めるとともに、その先の発展に必要な内科分野の強化を進めて参りますので、皆様には、引き続き、ご協力をお願い申し上げます。
さて、次に、これも昨年と同じく、国際共同利用・共同研究拠点と共に、医科研が我が国全体の生命科学に貢献している事業として、生命科学連携推進協議会、バイオバンク・ジャパン、そして橋渡し研究戦略的推進プログラムについてお話しいたします。
まずは、生命科学連携推進協議会ですが、これは、新学術領域研究の「学術研究支援基盤形成」事業を総括し、最先端の解析技術の研究を進めながら、我が国の科研費研究の支援を担う重要、かつ特色ある支援組織です。また、その代表を井上先生が、4つの支援プラットフォームのうちの2つの代表を村上先生と井上先生が担当されています。また、医科研の所長オフィスに運営事務を担当する学術研究基盤支援室を設置しており、醍醐先生、山田先生、真下先生、武川先生をはじめ、医科研の14名の教員が本支援事業に携わっています。既に、4,000に迫る研究課題を支援し、2,300報を越える論文として成果をあげていることからも、この事業の重要性がお分かりになると思いますが、それぞれ、この1年で、1,724課題、1,066報もの支援数、成果論文数が増加しており、極めて順調にその実績を積み上げている状況です。関係各位に深く御礼申し上げます。
次にバイオバンク・ジャパンですが、これも昨年のご挨拶で申し上げた通り、世界最大規模の疾患バイオバンクとして、良質の、極めて価値の高い試料を管理、分譲していますが、現在、その価値の源泉、源(みなもと)である臨床情報の追跡調査とDNA解析が並行して進められており、価値あるバンクとして、さらなる発展を続けております。事実、村上先生、松田先生、鎌谷先生、森崎先生、武藤先生、古川先生をはじめとする皆様のご尽力にて、DNAや血清の分譲実績は増加の一途を辿り、これらに代表される大きな成果が次々と報告されています。この点、バイオバンク・ジャパンの価値をさらに高めるための血清やDNA試料の網羅的な解析とその電子データ化を計画しておりますので、ご協力のほど、宜しく、お願い申し上げます。
次に橋渡し研究戦略的推進プログラム(東大拠点)ですが、これはアカデミアのシーズを基礎研究から支援するプロジェクトで、医学部附属病院とともに長村先生、東條先生を中心に医科研が東京大学拠点における幅広い支援を担当しており、シーズとしての発展と企業導出や臨床試験、治験、承認申請への展開が極めて順調に進んでいます。特に、この1年だけでも、さまざまな展開があり、最先端を走る藤堂先生の腫瘍溶解性ウイルス治療は、昨年末(12月28日)に承認申請に至ったとお聞きしました。素晴らしい状況と大変嬉しく存じます。
また、重複いたしますが、人で初めて実施されるFirst in Human試験にまで進んだ開発研究でも、この1年で進捗がありました。もし皆様ご自身の成果の中で、開発できる可能性を少しでもお感じのシーズがありましたら、是非、当該プログラムへの御相談をお願いいたします。それが医科研発の世界的な予防法、治療法になるかもしれません。以上、国際共同利用・共同研究拠点事業と、それを支える概算要求事業、病院機能強化、並びに、三つの研究支援プロジェクトについてご説明いたしました。
さらに、医科研の機能強化に重要な共同利用施設の強化につきましては、現在、真下先生が中心となって奄美病害動物研究施設の整備を、そして長村先生が中心となって細胞プロセッシング施設の新設を進めてくださっています。両施設の機能強化を進めておりますので、皆様には積極的なご利用をお願い申し上げます。
また、これも医科研の機能強化に重要な研究環境の強化につきましては、「遠隔講義・会議システムの強化」や、東大本部と協力して進めている「白金台キャンパス土地有効利用プロジェクト」が、御担当の岩間副所長や、松井部長をはじめとする事務部の皆様のご尽力の下で、着実に進行しております。さらに、3号館の耐震改修工事の準備も既に始まっております。
最後に、医科研の機能強化に重要な社会連携の強化につきましては、先ほど申し上げました未来医療開発を支える東大基金の創設と、その寄附者向けの特別セミナーの開催が担当副所長の古川先生と松井部長をはじめとする事務部の皆様を中心として実現し、既に、多くの御寄付を頂戴しております。古川先生や事務部の皆様、特別セミナーでの御講演を担当頂きました、四柳先生、河岡先生、石井先生、池上先生、谷口先生、武藤先生に深く、御礼申し上げます。
また、担当副所長の中西先生や広報委員長の渋谷先生を中心に、広報担当の皆様のご尽力にてHPの充実と広報誌、Platinum Street Timesの創刊も実現して頂きました。社会への発信と社会からの支援の好循環の新たなステージとして、関係各位に心より御礼申し上げます。この点、皆様にもHPのご活用や広報誌へのご寄稿等、ご協力の程、よろしくお願い申し上げます。
以上、昨年と同じく、様々な機能強化策とその進捗についてお話しいたしましたが、やはり、医科研にとって最も大切なことは、個々の研究者や医療者が、それぞれの知的好奇心に突き動かされて行う、独創的な研究や技術開発にあります。どうか、皆様には、医科研の素晴らしい環境の中で、先ほど申し上げました「膨大で複雑な情報とAIを活用する自由な基礎・橋渡し・臨床研究」を力強く進めてくださるよう重ねてお願い申し上げます。皆様の研究活動には、間違いなく、部門長の皆様、病院執行部の皆様、事務部の皆様の力強い御協力があり、我々執行部も引き続き全力で、皆様の研究を支え続ける所存です。
ご批判も多々あろうかと存じますが、本年も、就任時にお約束した通り、皆様が持てる力を余すところなく発揮してくださるよう全ての力を尽くしますので、ご協力の程、宜しくお願い申し上げます。
ご清聴、有難うございました。
東京大学医科学研究所 所長
山梨 裕司