東京大学医科学研究所
システム疾患モデル研究センター
先進モデル動物作製コア

小沢チーム

研究内容

高等生物では、多種多様な細胞が互いに共役し合うことで生命を維持しています。ヒトでは、実に37兆個もの細胞が集合して個体を形成していると言われており、その律動が恒常性の維持に必須であるとともに、調律の破綻は様々な疾患を引き起こす原因となります。したがって、高等生物における遺伝子機能や、それに付随する生命現象を理解するためには、適切な動物モデルを用いた個体レベルでの解析が不可欠であり、それを実現するための遺伝子改変動物作製技術の高度化が強く求められています。我々の研究室では、マウス受精卵や胚性幹細胞(ES細胞)を用いて、ゲノム編集技術を応用することで多様な遺伝子改変マウス作製を高効率かつ迅速に実現するための技術開発を行っています。

また、生命を維持する上で必須な種々の体細胞と異なり、生殖細胞は遺伝情報を次世代に伝えることだけに特化したユニークな細胞です。生殖細胞の発生異常は不妊の原因となるとともに、胚細胞腫瘍や精巣腫瘍の発症を誘発することも報告されています。我々は、当研究室で開発された最先端の遺伝子改変マウス作製技術を用いて、生殖細胞の発生や精子形成がどのようなメカニズムで制御されているのかを明らかにすることを目指しています。

ゲノム編集を駆使した遺伝子改変マウス作製技術の高度化

内在遺伝子機能の欠損(ノックアウト)や外来遺伝子の導入(ノックイン)といった遺伝子改変マウスを用いることで、様々な遺伝子や細胞の機能的役割が個体レベルで実証的に明らかにできるようになりました。従来法は技術的に非常に複雑で、また個体の作製までに半年から一年程度の時間を要するものでしたが、2012年に CRISPR/Cas9 を用いたゲノム編集が報告されて以降、遺伝子改変技術は劇的な発展を遂げています。我々の研究室では、CRISPR/Cas9を応用することで、ES細胞の遺伝子改変効率を飛躍的に向上させること成功し、複数遺伝子を同時に極めて高効率(~100%)に改変可能で、ベクター作製からキメラ動物作製までを数ヶ月程度で完了できる技術を報告しています。これら技術をさらに発展させ、個体レベルで多くの遺伝子の時空間的発現を簡便かつ自在に操作できるような新技術の開発を目指しています。

精子形成の制御の解明

ヒトでは心臓が一度拍動する期間に1,500個もの精子が作られています。精子形成は、未分化な精原幹細胞から始まり運動性を持つ半数体の精子に至るまで複雑なプロセスが厳密に制御されることによって維持されています。この生理機能の破綻は、不妊やがんなど様々な深刻な病態の原因となります。我々は、最先端の遺伝子改変技術を駆使することで、生殖細胞の発生・分化や精子形成がどのようなメカニズムで制御されているのかについて詳細に解明することを目指します。

生体内細胞運命転換技術を用いた個体レベルでの生命現象の理解

細胞のアイデンティティーは各々の細胞特異的な転写ネットワークによって形成・維持されています。現在、iPS細胞の誘導過程に代表されるように、体細胞に対して特定の転写因子を強制発現させることで、細胞の運命を積極的に変化させることが可能となりました。さらに近年では、多種多様な細胞が複雑に混在するマウス個体内においても、特定の細胞種を狙った人工的な細胞運命転換が「In vivo reprogramming」として可能になっています。この技術を改変かつ応用することで、発生・老化・発がん・性決定といった個体レベルで生じる様々な生命現象の分子基盤を明らかにし、得られた知見をもとに医学・生物学の進展に貢献することを目指します。