研究活動
学会報告
- Options IX for the control of influenza (2016/8/24-28)
- The fifth ESWI conference @ Rigta, Latvia (2014/9/14-17)
- 獣医学会 (2014/9/9-12)
- IUMS 2014 (2014/7/27-8/1)
- Keystone symposia (2014/1/19-25)
The fifth ESWI conference @ Rigta, Latvia (2014/9/14-17)
9月14日から17日までラトビアのリガで開催されたthe fifth ESWI conferenceに参加した。このconferenceの趣旨は、ヨーロッパにおけるインフルエンザ制圧のために、政策と研究の両面の専門家が集い、それぞれの専門知識を交換する、といったもの。規模は700人程度で、特にヨーロッパからの参加者が多かった。
以下に、特に印象的だった発表についてまとめる。
1. Virus structure and replication
- 徳島文理大学の畠山先生は、PB2のVal/Arg/Gly (VRG)部位がRNA-dependent RNA polymeraseの機能的部位であること、さらにVRG部位はacetyl-CoAと直接相互作用することを発表していた。大腸菌から精製したPB2を用いた生化学的な実験でPB2の機能的部位を同定し、変異ウイルスの増殖を確認した実験はシンプルな実験で説得力があった。質疑応答でC型ウイルスのPB2にはVRG部位がないとのことだったので、C型ウイルスのPB2はA,B型と若干異なるキャップスナッチング機構があるのかと思い興味深かった。
- 昨年Nuclear Acid ResearchとPNASにゲノムパッケージングの論文を発表したフランスのグループからは、Catherine Isel氏がA型ウイルスのゲノムリアソートメントにおけるパッケージングシグナルの役割ついて発表した。氏らはこの発表で、ゲノムリアソートメントにバイアスがかかっている理由は、ウイルスタンパク質のincompatibilityのみでなく、vRNA同士の相互作用のincompatibilityによっても制御されているからではないか、との仮説を紹介していた。発表では、A/Moscow/10/99(H3N2)とA/Finch/England/205/91(H5N2)をMDCK細胞に共感染、または、それぞれのウイルスのゲノムを混合してリバースジェネティクスを行うと、H5N2ウイルスのHAセグメントはそれ単体ではH3N2ウイルスセグメントと共に取り込まれず常にH5N2ウイルスのM, PAセグメントと一緒にウイルス粒子内に取り込まれることが述べられていた。さらに、H5N2 HAセグメントにH3N2 HAセグメントのパッケージングシグナルを付加、またはH3N2 Mセグメントにsilent mutationを導入するとH5N2 HAセグメントが単体でもH3N2 backboneに取り込まれることから、氏らはH5N2のMセグメントがH5N2 HAセグメントのincorporationをdriveしていると述べていた。このvRNA同士のinteractionはウイルス株によって異なるため、この手の研究では、明らかな規則性を見ることができる株同士を見つけることがポイントだと思った。
- Oxford UniversityのEd Hutchinson氏は、ウイルス粒子を高度に精製して定量的質量分析により解析することで、ウイルス粒子に取り込まれたタンパク質の構成を調べた。その結果氏らは、NS1がウイルス粒子に取り込まれる構成タンパク質であることを明らかにした。さらにウイルス粒子内には多くの宿主タンパク質が取り込まれており、その構成は宿主細胞によって異なることが述べられていた (Ex. CD9は宿主細胞が哺乳類細胞のときだけウイルス粒子に取り込まれる)。このことから、氏はインフルエンザウイルスが宿主細胞でのエキソソーム産生経路をウイルス粒子産生のために利用する「トロイのエキソソーム」であるとの仮説を紹介しており、興味深かった。
2. Genetics and evolution of virus and host
- Genetics and evolution of virus and hostのセッションでは、まず始めに低病原性鳥インフルエンザウイルス(LPAIV)が高病原性を示すまでの2つの独立した進化経路についてJurgen Stech氏が発表した。これまでに鳥インフルエンザウイルスが高病原性を示すためにはHAにpolybasic cleavage siteが必要であることが知られている。この発表で氏らは、高病原性の獲得にはHAのpolybasic cleavage siteと共にNA のstalk deletionがtransmissionに必要なこと、または、HA polybasic cleavage siteとNP, PB2およびMにもいくつかの変異が必要なことを示した。
- Emory UniversityのAnice Lowen氏は、共感染細胞におけるゲノムリアソートメントのダイナミクスについて発表した。氏らはA/Panama/2007/1999(H3N2)ウイルスのゲノムにいくつものsilent mutationを導入した変異ウイルスを作製し、WTと共感染させることで、バイアスがかかっていない状態で(1)リアソートメントが起きる頻度と、(2)ゲノムリアソートメントが起こる要因について解析した。氏らは(1)の実験で、MDCK細胞では88%の頻度でゲノムリアソートメントが起きるが、モルモットではその頻度がもっと低いことを明らかにした。(2)の実験では、in vivoでdose dependentにリアソートメントの割合が上昇することが明らかになった。本発表ではさらにゲノムリアソートメントにおけるDIウイルスの重要性について解析されており、DI abundantなウイルスでは共感染細胞の割合が増えるが、リアソータントウイルスの割合が減ることが示されていた。この結果についてLowen氏は、DIウイルスのDIセグメントが正常なセグメントの産生を阻むことで感染性ウイルス粒子の産生率が落ちること、また、DIウイルスはインターフェロンによる影響を受けるためウイルスの拡散に寄与しないと述べていた。発表後Lowen氏にウイルス粒子数をDI abundantなウイルスとそうでないウイルスで比較したのか質問したところ、ウイルス粒子数は計測しておらず、qRT-PCRによるvRNA量とウイルスタイタ―の比による比較しか行っていない、と言っていたので、個人的にはDI abundantなウイルスの方がウイルス粒子数が多いためにこのような結果が見られたのではないかと思った。
- NIHのChristopher Brooke氏の発表では、主に昨年J Virolにpublishされた内容が紹介された。氏らは先の研究でPR8の90%に感染性が無いsemi infectious(SI)粒子であることを示した。今回の発表では、SI粒子産生をトリガ―する要因について触れられていた。PR8のNPにF346Sの変異を導入すると、in vivoでnasal sheddingおよび伝播率が上昇した。このウイルスをさらに詳細に解析したところ、NP F346Sの変異を導入したウイルスでは、ウイルス粒子内へのNAセグメントの取り込み率が低下することが明らになった。さらに氏らは、不完全なセットのゲノムを持つウイルスをhigh MOIでモルモットに感染させることで、それらのウイルスが一つの細胞に共感染しお互いのゲノムを補完してin vivoでも増殖可能なことを示した。これら一連の実験結果からディスカッションでは、不完全なセットのゲノムを持つウイルス同士のゲノムの補完により、ゲノムリアソートメントの頻度が上がることが示唆されていた。Brooke氏の発表は、私が実際に観察した7本以下のRNPを持つウイルス粒子の存在意義を裏付けるものであったため、非常に印象的だった。それと同時に本研究結果は、PR8のNPとNAセグメント間のinteractionを示唆する内容であったと思う。個人的には、PR8のNP F346Sウイルスでは実際に電顕下でも7本以下のRNPを取り込んだウイルス粒子の観察頻度が上昇するのか、また、WSNなど他のウイルスでも他のセグメントが取り込まれなくなるような変異が存在するのかが気になった。
D1 中津 寿実保