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新学術領域「幹細胞老化と疾患」国際活動支援 派遣報告

訪問者:九州大学理学研究院生物科学部門学術研究員 山本 君代
訪問先:米国 ダナファーバーがん研究所 Michor研究室
期 間:2015年11月-(1年半のあいだ(予定))
目 的:訪問者 山本が癌発症機構の理論研究を推進するため
Dana-Farber Cancer Institute(DFCI)のBiostatistics and Computational Biology部門のMichor教授の元で、昨年11月より所属しています。Michor教授は数理科学的手法を用いたがん研究の権威で、当研究室には世界各国から数学、統計学、情報学、もしくは医学を専門とした研究者が多数参加しています。単なる理論研究にとどまらず、実際の実験データや臨床データを用い、融合研究を進めている点が特徴として挙げられます。
私はこちらで、がんの理論研究を進めています。癌細胞のclonal expansionを表現する方法の一つとして、分枝過程(branching process)と呼ばれる確率過程を用いた手法が用いられます。同手法を用いた先行研究では、癌細胞は永遠に指数増殖するという仮想的な状況を対象としています。私はここに、がんの解剖学的構造や細胞への栄養配分を考慮した進展制限を導入し、より実際的ながんの進展様式の表現を試みました。がんの成長曲線を、進展上限をもつLogistic増殖様式として表現し、simulationを再現する近似式を導くことに成功しました。本理論研究について論文執筆も完了し投稿段階です。それと並行して、膵癌臨床データを用い、疾患の進展や治療効果予測にかかわる数理モデルを構築し、戦略的治療計画を提案するプロジェクトを行う予定で研究を開始しました。現在は共同研究施設であるMassachusetts General Hospitalの10年以上にわたる臨床データが揃うのを待っています。
研究室内外の様子としては、研究室内カンファレンスや所属Biostatistics部門全体の合同ミーティング・テレカンファが週3-5回程度行われる他、DFCI内の講演に参加する機会もあり、研究環境として充実しています。また、共同研究者(Massachusetts General HospitalやJohns Hopkins Hospital等) との打ち合わせで5回ほど出張を行った他、近郊のSpringfield Technical Community Collegeにてアウトリーチ活動に参加する等、研究者として様々な経験機会が得られました。このような環境での研究機会を得られたことに感謝しつつ、引き続き研究を続行しようと思います。
新学術領域「幹細胞老化と疾患」国際活動支援 派遣報告
写真:所属施設のあるLongwood medical area