研究内容

背景

自己とは何か? 哲学的な疑問に免疫学が答える

多細胞生物は、病原体の侵入に常にさらされており、病原体の認識は、多細胞生物が成立するための根本的なホメオスタシス機構であります。リンパ球では、すべてに応答しうる多様性の中から、自己反応性のものだけが除去あるいは抑制されることで、自己非自己の識別がなされております。一方、リンパ球を持たない生物では、病原体センサーが危険な病原体を認識し、自己はもちろんのこと、危険でない非自己には応答しません。リンパ球の抗原受容体が、自己と非自己を識別するのに対して、病原体センサーは病原体と非病原体を識別するということもできます。リンパ球を持つ哺乳類とリンパ球を持たない他の生物の違いが、もっとも顕著な例として、臓器移植が挙げられます。他人の臓器を強く拒絶するヒトに対し、植物の接ぎ木は、同種ばかりか種を超えても可能です。このように、多細胞生物が自己を守るために何を排除するかという問題は、一見普遍的なようで、実は生物によって大きく異なっています。「自己とは何か」という疑問は哲学的において扱われてきましたが、その疑問に科学的に答えようとして来た学問が、免疫学です。我々はその中でも、病原体センサーによって定義される自己に興味を持っています。

自己とは何か? 哲学的な疑問に免疫学が答える

研究プロジェクト

我々の目標は、病原体と宿主との関係を分子レベルで理解することにあります。特に、病原体センサーであるTLRの病原体認識、活性制御機構に焦点を絞って解析を進めています。TLRは、病原体の侵入を素早く察知し、迅速で十分な防御反応を誘導するうえで、必須のセンサーであります。病原体由来のTLRリガンドは、病原体によってその微細な構造が変わります。TLRはその違いを識別し、誘導する応答を変えることが分かっています。TLRは同時に、常在菌や自己成分に対しても応答しうることが分かってきています。常在菌や自己成分に対して病原体のように反応すると、不必要な組織障害を引き起こしてしまいますので、TLRの活性を制御する必要があります。常在菌や自己成分も含めたTLRのリガンドを、TLRがいかにして認識するのか、TLRの認識、活性制御の破綻が、どのような疾患に関わっているのか、明らかにしていきたいと考えています。また、TLRの認識、活性を制御することで、さまざまな炎症疾患の制御が可能となるのではないかと考えております。TLRの活性制御は、感染症、エンドトキシンショックばかりでなく、自己免疫疾患、肥満、動脈硬化など、非感染性炎症疾患にも効果がある可能性があります。

  1. TLR4/MD-2の細胞内移行のメカニズムの解析
  2. TLRの細胞表面への発現と包括的活性制御機構の解析
  3. TLR3、TLR7、TLR9による核酸認識機構および活性制御機構
  4. RP105/MD-1の機能解析及び自己免疫疾患における役割