研究内容

Toll-like receptorと疾患―感染症と非感染性炎症性疾患

TLRは様々な疾患に関係しています。たとえば、ヒトのTLR3の機能が欠損すると、ヘルペス脳炎にかかりやすいことが報告されています。このほかTLRの異常、あるいはその下流のシグナル伝達分子であるIRAK4などの異常によって感染症にかかり易くなることがヒトにおいて報告されています。興味深いことに、TLRが関与している疾患は感染症にとどまりません。マウス、ヒトにおいて、TLRの関与が非感染性炎症疾患において指摘されています。自己免疫疾患や大量の組織破壊においては、死滅した細胞由来の核酸が、また、肥満、動脈硬化においては、脂肪酸などの脂質代謝産物が、TLRを活性化し、炎症を誘導、増強する可能性が指摘されています。肥満動脈硬化は、これまで脂質代謝異常と考えられてきましたが、炎症疾患でもあるという考え方が確立されつつあります。このように、TLRの病原体認識機構の解明を契機に、TLRと自己との相互作用が、今まさに解明されつつあります。興味深いことに、LPSを含まないMD-2単独の結晶では、LPSの結合部位に、飽和脂肪酸であるミリスチン酸が結合していました。飽和脂肪酸は、肥満や動脈硬化の病態において、Toll-like receptor 4 (TLR4)/MD-2を活性化する内因性リガンドとして機能している可能性が示唆されています。核酸についても、自己由来であっても何らかの状況ではTLRを刺激しうる可能性が考えられます。TLRがいかにして、自己への応答性を制御しているのかその機構については分かっていません。TLRと自己成分との相互作用の解析は、TLRによる自己と病原体との識別を解明するうえで、重要な疑問であり、われわれの主要な研究テーマの一つです。

LPSの脂肪酸側鎖が入るポケットには、LPS非存在下ではミリスチン酸が3本入っていた