ショウジョウバエにおけるRNA干渉を用いたインフルエンザウイルスの増殖に 重要な宿主遺伝子の同定
ショウジョウバエにおけるRNA干渉を用いたインフルエンザウイルスの増殖に 重要な宿主遺伝子の同定
インフルエンザは毎年冬になると流行し、乳幼児や高齢者を中心に犠牲者を多数出し、社会的な問題となっています。また数十年に一度出現する新型インフルエンザウイルスは、世界的流行(パンデミック)を引き起こし、甚大な被害を引き起こします。インフルエンザ感染には、タミフルなどの抗ウイルス薬が使われていますが、それらの薬剤は、ある特定のウイルスタンパク質の働きを抑えるので、ウイルス遺伝子の変異によって、薬が効きにくくなる耐性ウイルスができるという問題をはらんでいます。そのため、新しい戦略に基づいた抗ウイルス薬の開発が期待されています。
ウイルスは、細菌のように自力で増えられないため、人間などの細胞(宿主細胞)に感染し、宿主細胞内のタンパク質の働きを利用して、増殖します。そのため、ウイルス増殖に必要な宿主タンパク質とウイルスの相互作用を抑えるような薬剤は、有効な抗ウイルス薬となる可能性があります。しかしながら、インフルエンザウイルスの増殖に関わる宿主タンパク質は、これまでほとんど分かっていませんでした。
私たちの研究室では、ハエ細胞に感染できるように改変したインフルエンザウイルスを用いて、「RNA干渉」と呼ばれる方法により、ハエが持つ約1万3千の遺伝子の働きを一つずつ抑制し、どの遺伝子がインフルエンザウイルスの増殖に関わるかを調べました。その結果、インフルエンザウイルスがハエ細胞で増えるために必要だと思われる約110個の宿主遺伝子を同定しました。その中から幾つかの遺伝子を選び、ヒトの細胞を用いて、詳細な解析を行ったところ、エンドソームやミトコンドリアで働く宿主タンパク質が、インフルエンザウイルスがヒトの細胞で増殖するために重要な役割を果たすことが分かりました。
ハエ細胞で同定された約110個の全ての遺伝子が、ヒトの細胞においても、インフルエンザウイルスの増殖に重要な役割を担っている可能性は高いと思われます。現在、私たちの研究室では、ヒト細胞でのインフルエンザウイルスの増殖において、残りの遺伝子が果たす役割について、引き続き検討しています。これらの研究から導きだされる成果は、新たな抗ウイルス薬の開発につながることが大いに期待されます。