炎症性腸疾患を悪化させる免疫細胞の新たな活性化メカニズムを発見
炎症性腸疾患を悪化させる免疫細胞の新たな活性化メカニズムを発見
炎症性腸疾患は、近年増えている原因不明の難治性疾患であり、20歳代から40歳代を中心として、国内だけで10万人以上が罹患しています。1970年代に、炎症性腸疾患の患者の腸管組織では、免疫細胞の1つである肥満細胞が活性化(脱顆粒)していることが報告されました。肥満細胞は、花粉症や食物アレルギーを引き起こす免疫反応の「悪玉」として働く一方で、感染症から生体を守る「善玉」として働くことが知られています。しかし、これまで炎症性腸疾患における肥満細胞の役割は不明でした。
我々は、はじめに、肥満細胞を欠損させたマウスでは、炎症性腸疾患の症状が軽減していることを明らかにしました。このことから、肥満細胞は炎症性腸疾患では「悪玉」として働くことが分かりました。そこで、何が肥満細胞を活性化しているのかを探索したところ、従来のアレルギー反応での働きとは異なる、新たな肥満細胞の活性化機構が明らかとなりました。そのメカニズムとは、細胞内ではエネルギーとして活用されているアデノシン三リン酸(ATP)が、傷害を受けた組織などから細胞外に放出された際に、肥満細胞の表面にあるP2X7受容体と結合することで、肥満細胞を活性化することであることが初めて証明されました。
P2X7受容体を欠損させた肥満細胞を持つマウスでは、炎症性腸疾患の症状が抑えられることから、P2X7受容体と細胞外ATPの結合を抑えることが、新たな炎症性腸疾患の治療標的として期待されます。 本研究は、東京大学 医科学研究所の伊庭 英夫 教授、大阪大学の飯島 英樹 講師、東京理科大学 理研免疫・アレルギー科学総合研究センターの久保 允人 教授らの協力を得て行いました。また、科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事CREST、農研機構・生物系特定産業技術研究支援センターBRAIN、厚生労働科学研究費補助金、科学研究費補助金、ヤクルトバイオサイエンス研究財団の支援を受けて実施しました。